御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
本心じゃない。

でも、それを言わずにはいられなかった。

逃げない。向き合う。彼が、誰を想っているのか。

震える声でそう言った私に、律さんはゆっくりと手を伸ばし、そっと頬に触れた。

その指先は、ひどくあたたかくて、切なかった。

「なんで──そんなこと言うんだよ……」

律さんの声が震えていた。

気づけばその瞳から、涙がこぼれていた。

「……律さん……?」

「俺には、もう……千尋しかいないよ。」

その言葉と共に、私はぎゅっと抱きしめられた。

胸の奥まで、彼の鼓動が伝わってくる。

「確かに……涼花には言ったよ。全力で愛してたって。」

そう言う律さんの声が、私の肩口で掠れていた。

そして、頬に落ちた涙が熱かった。

「でも今は違う。……千尋への愛は、とっくにそれを超えてる。」

律さんの両手が、私の頬を包み込む。

その目は、揺るぎのない光で私を捉えていた。
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