御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「信じるな、千尋。俺はそんなこと、一言も言ってない。」

「で、ですよね……」

分かってる、信じてる。だけど、頭と心が追いつかない。

お母様は腕を組んだまま、ため息をついた。

「ふぅ……まったく。まさかとは思ったけど、涼花さん、あなたに嘘を吹き込んでたのね。」

律さんの表情が、みるみる険しくなる。

「俺が行く。話をつけてくる。」

その一言に、私は思わず腕を掴んだ。

「……待って。私も一緒に行く。」

涙で潤んだ視界の中、律さんが力強く頷いてくれた。

車に乗り込み、ひたすら走った。無言のままの30分。

ようやく辿り着いたのは、都内の高級住宅街に佇む、白いタイル張りのマンションだった。

律さんがインターホンを押すと、しばらくして涼花さんが現れた。

「これは……奥様まで。」

驚いたような声とともに、彼女の笑顔が消えた。

その顔は、まるで“計算が狂った”と言っているかのようだった。
< 139 / 252 >

この作品をシェア

pagetop