御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
暖簾をくぐった瞬間、焼き鳥の匂いと懐かしい昭和歌謡が迎えてくれる。

私たちは自然と、あの頃いつも座っていたカウンターの隅に席を構えた。

「とりあえずビールで。」

悠太がそう言って、二人分のジョッキが置かれる。

私はほとんど無意識のまま、その冷たい泡をひと口で飲み干した。

グラスを置いて、私はまっすぐに彼を見た。

「悠太。私ね——」

一瞬、言葉が詰まりかけた。でも逃げなかった。もう、逃げたくなかった。

「律さんのことが、どうしようもなく好きなの。」

言った瞬間、胸の奥がひりついた。けれどそれは、痛みではなかった。

覚悟を決めたときの、あの、心に灯る小さな灯りのような。

悠太は黙っていた。口を開こうとして、また閉じて。やがて、小さく笑った。

「最初は、交際しないで結婚なんて、冗談もたいがいにしてよって思ったけれど。律さんの説明に納得したから、結婚したの。」
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