御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
私はごまかすように、店員さんを呼んで悠太のビールのお代わりを頼んだ。

「普通はさ、ショックで体が動かないとか、浮気の証拠をつかもうとして遠くから見てるとか……そんな奴が多いけど。あれはさすがに、神楽木フォールディングスの御曹司を名乗るだけの人だと思ったよ。」

皮肉でも嫌味でもない。

本気で、あの時の律さんを“男としてすごい”と、認めている声だった。

「……私も、驚いたの。あの時。」

「うん。」

「でもね、嬉しかったんだ。あの人が、あの場にいてくれて。」

悠太は、もう頷くしかなかった。

きっと分かってる。私の心がもう彼には向いていないことを。

静かに届いたビールを手に、悠太は微笑んだ。

「そっか。……やっぱ、もう無理だな。俺の入る余地なんて。」

私は黙って頷いた。胸が苦しかったけど、それでも目は逸らさなかった。

「それだけ惚れられる女になったんだな、千尋は。」

「ありがとう。」
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