御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
翌日。
時計の針が18時を指した瞬間、私は急いでデスクを片付けた。

「お先に失礼します」と同僚に軽く会釈し、オフィスを出る。

エレベーターで下に降り、ガラス張りのエントランスへ向かったその時──

視界の端に、見慣れたスーツ姿が映った。

──律さんだ。

神楽木律。私の夫。
でも今は、正直……会いたくなかった。

顔を見たら、何もかも溢れてしまいそうで。

言わなくてもいいことまで、口にしてしまいそうで。

──ここで喧嘩なんてしたくない。

私はそっと、足音を忍ばせて出口の方へ向かった。

律さんの視線を避けながら、回転ドアの手前に差しかかる。

あと少しで、この場を離れられる──

そう思った瞬間だった。

「……千尋。」

ふいに、腕を掴まれた。

「えっ──」

驚いて振り返ると、そこには息を殺すような真剣な表情の律さんがいた。

「待てよ。」

低く絞るような声だった。
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