御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
私は口を開きかけて、すぐに閉じた。

人目がある。ここはオフィスビルのエントランス。

でも、そんな空気も関係ないと言わんばかりに、律さんは私の腕を引いて、回転ドアの前から少し離れた柱の陰に連れて行った。

「話がしたい。」

律さんの目は、私の心を射抜くように真っ直ぐだった。

でも私は、目をそらした。

その瞳を見るのが、苦しかった。

「……今は、無理。」

小さく、でも確かにそう告げると、律さんの指がわずかに震えた。

それでも、私の腕は離さなかった。

「千尋、俺は……」

律さんが何かを言いかけたその時。

「千尋、俺は君の夫であるが、あの会社を継ぐべき人間なんだ。」

律さんの言葉に、胸がズキンと痛んだ。

わかってる。

そんなこと、結婚する前からわかってた。

「俺がしっかりしないと、数千人という人が路頭に迷うことになるんだ。」

彼の手の中にあるのは、私なんかよりずっと大きな責任。

家族という単位じゃなく、会社という大きな組織。
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