御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
そう言って、ゆっくりと背を向ける。

律さんの手が伸びてこないことが、逆に答えを示しているようで、胸が痛んだ。

──私だって、分かってる。

律さんが忙しいことも、責任が重いことも。

でも、私の気持ちは、きっとそんなに軽くなかった。

実家に帰ってきて二時間ほど経った頃だった。

居間でテレビをぼんやり眺めていると、インターホンの音が鳴った。

「誰だ? こんな時間に。」

玄関に向かったお父さんが、しばらくして戻ってきた。

「千尋、お前に客だ。婿殿だ。」

律さんだった。
まっすぐにこちらを見ている。

「話がしたいんです、千尋さんと。」

その言葉に、お父さんは私の顔をちらりと見てから、小さく息を吐いた。

「……まあ、入れ。婿殿。」

「失礼します。」

硬い足取りで、律さんがリビングへと入ってくる。

お母さんがタオルを畳む手を止め、私はソファの端で無言のまま座っていた。
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