御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「じゃあ、お父さん、お母さん。お騒がせしました。」

玄関に向かおうとした私たちに、お母さんが手を振った。

「はいはい。仲良くやるのよ。」

その言い方がもう、最初からすべて分かっていたような口ぶりで、私は思わず苦笑した。

さすがは母。何年も私を見てきただけのことはある。

「はい……気をつけます。」

律さんが、すこし気恥ずかしそうに頭を下げると、後ろにいたお父さんが、難しい顔をして腕を組んだままだった。

「千尋。嫌になったらいつでも戻ってくるんだぞ。」

それはきっと、最後の負け惜しみ。

けれど、その言葉が私の胸をじんとあたためた。

父なりに、私のことを心配してくれていたのだ。

「ありがとう、お父さん。でも、大丈夫。私、行くね。」

「……ふん。」

不器用に顔をそらす父を横目に、私は律さんの隣に立った。

そして、二人並んで玄関を出る。

もう、戻る場所は決まっている。

私の居場所は、律さんの隣――それだけは、はっきりしていた。
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