御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
だけどバスルームはそんなに広くない。すぐに壁にぶつかる。

「千尋……」

律さんの手が、そっと私の頬に触れた。

濡れた指先の温度がやけに熱くて、私は瞬きをするのも忘れて見上げた。

「一緒にお風呂、入りたかったんだ。ずっと我慢してた。」

「え……?」

「千尋が恥ずかしがるから、今までは遠慮してたけど……。今日は特別でしょ?」

その瞳が、真剣だった。

茶化しているわけじゃない。

ちゃんと、私を、大切に思ってくれている顔。

私は……。
今まで、恥ずかしくて避けてたけど。

今夜だけは──彼に、全部を見せてもいいと思えた。

「……見ないでくれるなら。」

「うん、わかった。」

そう答えながら、でも律さんの目は、そっと私を見ている。

タオルをそっと外した瞬間、律さんがそっと背中に手を添えた。

「綺麗だよ、千尋。」

小さな声だったけど、あまりにも真っ直ぐで。

私はもう、隠すことをやめた。
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