御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「……ありがとう。」

「じゃあ、一緒に行こう。俺、千尋を一人で悩ませたくない。」

私はうんと頷いて、律さんの手を握った。

その温もりが、今夜の不安をすべて溶かしてくれる気がした。

ドラッグストアの明るい蛍光灯の下。

私は、妊娠検査薬が並ぶ棚の前で立ち尽くしていた。

その小さな箱が、人生を大きく変えるものに思えて——

手が、伸ばせない。

「……本当に、私……妊娠してるんだろうか。」

心の中で呟く声が震えていた。

期待と不安が入り混じる。

希望が怖くなるなんて、初めてだった。

「千尋?」

横にいた律さんが、私の迷いに気づいた。

私は俯いて、小さく首を振る。

「……やっぱり、まだ早いかも。」

そう言って、その場から立ち去ろうとした——その時。

「……俺が買うから。」

律さんの言葉が、背中に落ちてきた。

振り向くと、彼は迷いなくひとつの箱を手に取っていた。

そしてレジに向かい、会計を済ませる。
< 247 / 252 >

この作品をシェア

pagetop