御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
まだ生活の温もりが足りない。そんな気がした。

「……ああ、リビング?」

律さんは私の言葉に頷くと、段ボールの中から何冊かの本を取り出して、軽く埃を払った。

「俺も最初、戸惑ったよ。広すぎてさ、まるで自分だけがぽつんと浮いてるみたいな感覚だった。」

それはきっと、今の私と同じ。

明らかにこの家は、一人暮らし用ではない。

家具はシンプルに整っていて、生活感は最小限。

だけどその分、誰かと過ごすことを前提とした“余白”が多く残されている。

「この本、俺の部屋の本棚に置くよ?」

「うん、お願い。」

私の本を、律さんの部屋に――

“彼の生活の一部”に置くことが、ほんの少し照れくさい。

でも、それがなんだか嬉しくて。

箱の中から、もう一冊、思い出の本を取り出して彼に差し出した。

「これも、一緒にお願い。」

ほんの小さなことだけど、今、私たちは“二人の家”を作り始めている。
< 55 / 252 >

この作品をシェア

pagetop