御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
その日は、いつもよりもずっと遅くまで残業していた。

「どうしよう……早く帰らなきゃ。」

時計を見て、焦る気持ちが募る。

「夕食のおかず……買っておかなきゃいけないの、あったんだよね……」

急いでバッグを手に取ったその時だった。

「朝倉。」

部長の声に、足が止まる。

「帰りがけに悪いんだけど、寺川不動産の件、どうなった?」

「……あっ!」

しまった、と顔が青ざめる。

あの案件、締め切りは明後日。けれどまだ、整理しきれていない。

「……明日、なんとかします。」

そう言うと、部長はふっと息をついた。

「うん。」

終わったと思ったその瞬間、さらに言葉が追いかけてきた。

「新婚なのはわかるから。無理な案件なら、早々に他の人に頼んで。」

ズキン、と胸が痛んだ。

「はい……」

口ではそう言っても、気持ちは割り切れなかった。

仕事に手を抜いてるつもりなんて、ないのに。

それでも“新婚”というだけで、色眼鏡で見られるのかと思うと……悔しかった。
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