御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
会社のビルを出た瞬間、スマホが震えた。

《脇道で待ってるよ。》

画面を見て顔がほころぶ。あたりを見渡すと、すぐに黒の車が目に入った。

律さんの車だ。私は急いで駆け寄り、助手席のドアを開けた。

「ごめん、遅くなって。」

「いいよ、仕事だったんだし。」

律さんは穏やかに笑いながら、私がシートベルトを締めたのを確認してエンジンをかける。

車が静かに走り出す。

「夕食、買わないといけない物があって……」

「ああ、今日はどこかで食べて行こう。」

その一言が、やさしく胸に沁みた。

いつの間にか、私はぽつりとつぶやいていた。

「今日、新婚なのはわかるけど、仕事もしろって言われた。」

その瞬間、律さんの横顔が少しだけ硬くなった。

ハンドルを握る手に、わずかに力が入るのが分かる。

「……そう言われたのか。」

ゆっくりと右折しながら、彼は目を細めた。
< 68 / 252 >

この作品をシェア

pagetop