御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
その瞳に怒りというより、悔しさが滲んでいる気がした。

「うん。でも、私の立場だと仕方ないんだよね。」

そう言いつつも、自分の言葉が言い訳のように響いて、思わず視線を落とした。

律さんは深く息を吐くと、そっと私の手を握った。

走る車の中で、その手の温かさが心に染みた。

「でもね、ちゃんと定時に帰って。律さんにご飯作りたい自分がいるんだ。」

そう言った私の言葉に、律さんは赤信号で車を止めると、ハンドル越しに私の方をちらりと見た。

「無理しなくていいよ。」

静かにそう言う律さんに、私は体を少し起こして向き直る。

「俺、千尋の立場も分かってる。仕事って、理想通りにいかない日もある。残業して遅くなったら、こうやって外食するのもいいんだし。」

青信号に変わり、車が静かに走り出す。

でも私は、諦めたくなかった。

「……それでも律さんにご飯作りたい。」
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