御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
自然と涙がこぼれ落ちた。

拭う暇もなく溢れてきて、自分でもびっくりするくらい。

「泣かないで。ほら、料理が煮立ちすぎてるよ。」

慌てて律さんがコンロの火を止めてくれる。

グツグツと音を立てていた鍋の中からは、やさしい匂いが立ちのぼる。

「ほら、千尋。美味しそうだよ。」

そう言って、にこっと笑うその顔――。

私が大好きな、律さんの笑顔だった。

ああ、そうだった。

私、こういう顔が見たくて。

「おいしい」って言ってもらいたくて、毎日頑張ってたのに。

「うっ、うっ、律さん……」

「えっ?千尋?」

「うわああん!」

とうとう我慢できずに、声をあげて泣いてしまった。

律さんは、何も言わずに私を抱きしめてくれた。

ぎゅっと、まるで子供をあやすみたいに。

その温もりが、全部を許してくれた気がした。
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