【マンガシナリオ】あの絵をほめてくれたのは君だけだったから

第3話

描斗「……お隣さんだとは知らなかった」

絵美「私も」

描斗、それだけ言うと、さっさと部屋に入ろうとする。

絵美「あ、待って!」

描斗「……なに?」

絵美、慌てる。特に何も考えず呼び止めていたから。

絵美「えっと……」

絵美、授業の時に思い出したことを尋ねてみる。

絵美「神尾くんって……もしかして〇×町の〇×小学校だったりしない?」

描斗の表情がわずかに驚く。

描斗「……確かに、いたことはある。〇×小」

絵美「じゃあ――」

絵美がその先を言おうとして、描斗が先に呟いた。

描斗「だけど転校したから。転校先の方が長いから、あまり覚えてない」

それだけ言って、描斗、さっさと自分の部屋に帰る。

絵美「あ……」

描斗が部屋に入っていくのを見ることしかできなかった絵美。

絵美「……明日も大学で会うからいっか」

絵美も部屋に帰る。


翌日、大学。
予想通り、大学で描斗を見かける絵美。
会って数日、描斗の無表情ばかり見てきた絵美、珍しく困った表情をした描斗と遭遇。

絵美「考え事?」

描斗「ん……? ああ、あんたか。別に何も」

そう言いつつ教科書をさっと鞄に戻す描斗。
絵美、それを見逃さない。

絵美「授業、何かわからないところあるなら教えるよ?」

描斗、少し驚きながら絵美を見る。

描斗「……あんたが?」

描斗の表情は『あんた教えれるの?』と言っているような不安げな表情。

絵美「あー! 『教えれるの?』って表情してる」

描斗「いや、そんなことは……」

戸惑う描斗に、絵美は冗談ぽく笑う。

絵美「いいよ。みんな大抵初めての人はそう言う。『教えれるのか?』って。
   でもこう見えて私、〇×高校トップの成績なんだよ?」

描斗、先程と違い、あからさまに驚きを見せる。

描斗「は? あんた、そんなに頭いいの?
   それに〇×高トップなら、都内の〇×大に余裕で行けるじゃん。なんでここに」

絵美「うん、みんなそう言った。親も友達も先生も。〇×大に行けって」

そこで一拍し、絵美、鞄からスケッチブックを取り出す。

絵美「でもね、私、絵を描くのが好きなの。とっても、何よりも」

絵美、スケッチブックをパラパラ捲る。
ページが最後まで行った後、少し悲しげな表情で呟いた。

絵美「でもね、なんでかな。
   こんなに絵を描くの好きなのに、私、絵だけはみんなから下手って言われるんだ」

絵美、大学内を見回す。

絵美「だからここに入れたのすごくうれしかったの。私、絵でもやっていけるって。
   でも、やっぱりみんなから下手って言われちゃった」

絵美、スケッチブックを強く握る。悔しそうに。

描斗「……そっか」

描斗、絵美を見る。

描斗「あんた、俺と反対なんだな」

絵美「反対?」

描斗、鞄にしまった教科書を取り出す。

描斗「俺は昔から『絵、上手いね』って言われてた。確かにたくさん賞もとった。
   別に、絵を描くことが嫌いなわけじゃない。ただ……」

描斗、鞄を大きく開ける。そこには大量の教科書が。

描斗「俺、行けるなら〇×大に行きたかった。でも行けるわけなかった。絵以外、成績ダメだったからさ。
   親や教師の言うがまま、この大学に入った」

表情が暗くなる描斗。

一方、絵美は閃いたといわんばかりに明るい表情に。

絵美「じゃあさ! 教え合いっこ、しない?」

描斗「教え……合いっこ?」

絵美、自分を指した後に教科書を指す。

絵美「私はきみに、勉強を教える!」

絵美、次に描斗とスケッチブックを指す。

「きみは私に、絵、教えてよ!」

いい案でしょ、とばかりにどや顔を浮かべる絵美。
その顔を見て、描斗、珍しく笑った。

描斗「なんだよ、その顔は。そんなにすごい案じゃないだろ」

絵美「むー」

絵美、むくれる。

描斗「でも……いいんじゃね」

描斗、手を差し出す。
絵美、わからない表情。

描斗「なんだよ。教え合うんだろ、握手くらいしようぜ」

絵美「あ、うん!」

二人握手しあう。
いい雰囲気。
しかし大学のチャイムが鳴る。

描斗「やべ、次の授業あるんだった。じゃあな!」

絵美「あ、そうだった。私も!」

二人は揃って校舎に駆け出す。
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