【マンガシナリオ】あの絵をほめてくれたのは君だけだったから

第4話

大学の自習室。
机で向かい合う絵美と描斗。

絵美「だからね、ここの問題はこの公式を使って――」

絵美、描斗が開いている教科書を指差して説明中。現在は数学のよう。

描斗「んー? あー、なる……ほど?」

描斗のあからさまにわかってない表情。
絵美、苦笑い。

絵美「神尾くん。悪いけどここの説明がわからないなら、中学生の教科書からやり直した方がいいと思う……」

描斗「う……」

描斗、深く落ち込む。


しばし後。攻守交替。
絵美、スケッチブックに絵を描いている。

描斗「……そっちの線、濃すぎる。そこはもっと薄く細い方が良くなる」

絵美「え、ええ? でもここを強調したほうが……」

描斗、ため息をついて、言い方を変える。

描斗「あんたはそうかもしれない。けど、言い方悪いが世間一般的には、そこの線は細い方が上手いと言われる」

絵美「う……。で、でも神尾くんは――」

描斗「俺も濃い線は悪くないとは思う。ただ上手いと言われたいなら、そこは細くだ」

絵美「むー……」

絵美、ふくれっ面になりつつも、絵を描き直し始める。


さらに後。
自習室の机に突っ伏す絵美と描斗。

絵美「なかなか大変だね……」

描斗「そりゃそうだろ……。そんなすぐに絵が上手くなったり勉強ができるようになったら苦労しない。ただ……」

描斗、顔を上げ絵美の方を向いて言う。

描斗「あんた、教え方上手いよ。先生向き」

絵美も顔を上げ、描斗を見る。

絵美「全然わかってなさそうだったけど?」

描斗「言うな。けどな、ただ一人で勉強してた時よりもさ。わかりやすかった」

絵美「そう? それなら教えてるかいがあった」

絵美、スケッチブックを取り出す。

絵美「それなら君も、絵、教えるの上手いと思うよ」

描斗「そうか?」

絵美「うん、なんて言うか……。すごい客観的でわかりやすくダメ出ししてくれたし。
   私の絵のどこが下手って言われるか、わかってきた気がする」

描斗、悪そうな笑みを浮かべる。

描斗「全然わかってなさそうだったけどな?」

絵美「あー! そういう返し方する!」

絵美、怒る。
描斗、からかうように笑う。


アパート。

絵美「じゃあ、また明日ね」

描斗「ん、また明日」

二人、お互いの部屋に帰る。

絵美、鞄を下ろしてスケッチブックを取り出す。

絵美(上手くなる……か)

絵美、スケッチブックを開いていく。
ずっと下手と言われ続けてきた絵たちばかり。

絵美(上手にはなりたい。でも……)

『ん……。良いんじゃない? 俺は好きだよ』

『いいんじゃない? オレは好きだよ』

先日の描斗の言葉と、昔の少年の言葉が脳裏に響く。

絵美(あの子も神尾くんも、この絵を『好きだよ』って言ってくれた。
   絵が上手くなると、それから離れて行っちゃうのかな……)

絵美、スケッチブックを抱えたまま、考えに耽る。
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