八咫烏ファイル
【ロイヤル街道・地下会議室】
巨大な円卓に一人座る男
日向 観世
壁一面のモニターには東京と横浜の各地の映像が映し出されていた
炎上し黒煙を上げる警視庁
死体の山が築かれた関東誠勇会本部
そして今は銃声の止んだ横浜中華街
観世はその全ての光景を静かに見つめている
やがて彼は黒電話の受話器を上げた
『はい!倉田です!』
電話の向こうで警視総監倉田 正孝の切羽詰まった声が響く
「日向です」
『っ!日向様!』
倉田の声が一瞬で緊張に強張った
「横浜中華街周辺。関東誠勇会とCTの抗争は一段落しました」
観世は淡々と事実だけを告げる
『ははい!ただいま情報が……!』
「ですので今から警察を向かわせなさい」
『はっ!はい!』
「そしてCTの人間は残党一人残らず逮捕。その後検察へ送致しなさい」
「彼らにはテロ等準備罪を適用し通常よりも重い罪を課します」
「それは私の方で検察に直接手を回しますので」
『ははい!分かりました!』
「……関東誠勇会の人間についてですが」
『はい』
「彼らも一旦は全員逮捕しなさい」
「ですがその後証拠不十分で全員釈放するように」
『なっ……!?ひ日向様!それはいくらなんでも……!』
倉田が初めて異を唱えた
「なんですか?」
観世の声は静かだった
『いえ……!これだけの騒ぎを起こしておいてヤクザを無罪放免というのは我々警察のメンツが……!』
「メンツというなら……」
観世の声が氷のように冷たくなった
「なぜこうなるまであなた方警察は動かなかったのです?」
『そそれは……!』
「あなた方は今日反社会的勢力に助けられたのですよ?」
「メンツと言うなら……なぜその大事なメンツのために今まで動かなかった!」
観世の怒声が受話器の向こうの倉田を打ちのめす
『…………』
「どれだけの国民が今までCTのせいで犠牲になりましたか?」
「奴らが行ってきた数々の犯罪行為がこの国をどれだけ危険な状況に晒してきたか分かっているでしょう」
「それを放置し続けたあなた方にメンツを語る資格などない」
「出来ないというなら今すぐ警視総監の椅子を降りなさい」
『いいえ!やらせていただきます!』
倉田の悲鳴のような声が聞こえた
『警察を総動員させてでも必ずやり遂げます!』
「結構。それから」
「マスコミ関係者全てに報道規制をかけてください」
「今回の件は『過激派テロリストによる警視庁襲撃事件』。ヤクザやマフィアの名は一切出すな」
『わ分かりました……!』
「よろしく頼みますよ倉田総監」
日向はそれだけ言うと静かに電話を切った
再び静寂が戻った会議室
彼は全ての駒が自分の思った通りに動き出したことを確認すると満足げに目を閉じた