八咫烏ファイル

【深夜・高速道路】
数十台はあろうか
黒塗りの高級車で構成されたとてつもなく長い車列が
横浜へと続く高速道路をひた走っていた
関東誠勇会の全戦力
その先頭車両で組長の坂上 誠は静かに目を閉じていた
(全ての決着をつけよう)
(この長い長い夜の決着を……)
やがて遠くに横浜の街の光が見えてきた
金虎開発ビルも見える
その時運転をしていた幹部が声を上げた
「親父!金虎開発ビルが……!」
坂上は顔を上げそのビルに目をやる
黒いはずのビルが赤い
いや燃えている
ビルが燃えているからか
あるいはもう夜が明けようとしているのか
東の空がまるで血で染められたかのように
美しくそして不気味な赤い色をしていた
【金虎開発ビル前】
キーッという甲高いブレーキ音を響かせながら
長い車列が次々と停車する
ドアが開き中からドスや拳銃で武装したヤクザたちが溢れ出てきた
だが彼らは誰もが言葉を失っていた
目の前で紅蓮の炎を上げて燃え盛る金虎開発ビル
彼らが命を懸けて殴り込みをかけようとしていた敵の本拠地は
すでに誰かの手によって陥落していたのだ
坂上は車から降りると
呆然と立ち尽くす幹部たちの方へと振り返った
そしてそのしゃがれた声でしかし力強く叫んだ
「―――戦争は終わった!」
その声に全ての組員が坂上の元へと集まってくる
「お前たちには大変な思いをさせた」
坂上は集まった息子たちの顔を一人一人見つめながら言った
「……申し訳ない」
そして深々と頭を下げた
その時だった
ウウウウウウウウッ!
けたたましいサイレンの音
おびただしい数のパトカーが一斉に彼らを取り囲んだ
「なんだとコラァ!」
「ポリ公が!今更何の用だ!」
「俺たちをハメやがったのか!」
幹部たちは一斉に銃を構えようとする
だがそれを坂上の一喝が制した
「落ち着けい!!」
「お前らに最後の命令だ」
「警察には一切抵抗するな!」
パトカーから次々と機動隊員が降りてくる
その先頭に立つ指揮官を見据えながら坂上は静かに両手を上げた
そして最後に息子たちに向かって叫んだ
「今までありがとうよ!我が息子たち!」
その言葉を合図に関東誠勇会の全ての組員は武器を捨てた
こうして関東一円にその名を轟かせた巨大組織関東誠勇会は
その日事実上壊滅した
燃え盛るビルの赤い光が
まるで一つの時代の終わりを告げる巨大な篝火のように
男たちのその最後の姿を静かに照らしていた
< 39 / 46 >

この作品をシェア

pagetop