八咫烏ファイル
第十五章:ケジメ
第十五章:ケジメ
【ロイヤル街道・地下会議室】
巨大な円卓に一人座る男
日向 観世
彼の正面の巨大な壁面モニターには
いくつもの映像が分割して映し出されていた
炎上し黒煙を上げる警視庁
銃声の止んだ横浜中華街
そして今まさに炎に包まれている金虎開発ビル
観世はその全ての光景を静かに見つめている
やがて彼は黒電話の受話器を上げた
『……もしもし…』
電話の向こうから聞こえてくるのは
疲労と混乱に満ちた男の声
内閣総理大臣・長部 康介だった
「日向です」
『ひゅっ!ひ日向様……!』
総理の声が一瞬で緊張に強張った
「アメリカからの圧力の原因は先ほど完全に排除しました」
観世は淡々と告げる
『ありがとうございます!本当にありがとうございます!』
総理の安堵に震える声
「ありがとう?」
観世の声が少し低くなった
「お礼を言う相手が違いますね」
「今回この件を解決したのは反社会的勢力です」
『あ……』
総理は言葉を失う
「どうやらあなた方、政治家よりも反社会的勢力の方がよほど愛国心があるようですな」
『いいえ!そのようなことは決して……!』
「今はまぁいいでしょう」
観世はその言葉を遮った
『はぁ……』
「昨日横浜港から出航した中国の巨大貨物船。今メキシコに向かって太平洋上を航行しています」
『は、はい』
「その巨大貨物船を自衛隊機で爆撃し撃沈させて下さい」
『そ、そんなことをしたら中国との全面戦争!国際問題に発展します!』
総理が悲鳴のような声を上げた
「アメリカとの国際問題を放置しておいて何を今更言っているのですか?」
観世の声はどこまでも冷たい
『いやしかし!あの薬物の件はまだ確たる証拠が……!』
「横浜の金虎開発ビルの地下に証拠はありますよ」
「もう爆破しましたがね。後でゆっくり掘り出せばいい」
『わ、分かりました……』
「中国の巨大貨物船を撃沈する」
観世は命令を繰り返す
「それが済んだら今回の麻薬密輸とテロ事件の全ての証拠を突きつけ国際社会と連携し徹底的に中国政府に圧力をかけなさい」
『……はい……分かりました……』
「私はちゃんと見ていますよ?長部総理」
その静かな声には神のごとき圧があった
「以後このような失態のないように…」
「国民のためにしっかりと政治をやりなさい」
『は、はい!以後この様なことの無きよう全力で取り組みます!』
観世はそれだけ言うと静かに電話を切った
再び静寂が戻った会議室
彼は全ての駒が自分の思った通りに動き出したことを確認すると満足げに目を閉じた
日本の夜明けはまだ遠い