八咫烏ファイル
【深夜・太平洋上空】
漆黒の闇を切り裂き
7機のF-35 ライトニングIIが静かに編隊を組んで東へと向かっていた
ステルス性能を最大限に活かしレーダーはおろか肉眼での捕捉すらほぼ不可能なその姿はまさに夜の隼
パイロットたちはグラスコックピットに映し出されるクリアな情報を冷静に見つめていた
「こちらファルコンリーダー。目標を確認。針路080距離120」
冷静な男性の声が編隊を率いる機体のパイロットから各機に無線で伝わる
「ロジャーリーダー。こちらファルコン2。目標視認まであと僅か」
僚機からの返答もまたプロらしく落ち着いていた
彼らが追うのは遥か下を航行する巨大な影
中国籍の巨大貨物船だった
表向きは雑貨や食料品を運ぶ民間の船
だがその実態は日本を深く蝕む悪の根源
日向 観世からの絶対的な指令を受け彼らはその海の上の巨人を跡形もなく消し去るためにこの空を飛んでいる
やがて各機のセンサーが明確な目標を捉え始めた
広大な海原に悠然と浮かぶ巨大な船影
その無機質なシルエットはどこか不気味な威圧感を放っていた
「全機戦闘態勢へ移行。繰り返す全機戦闘態動へ移行」
リーダー機からの指令が緊張感を高める
パイロットたちは無駄のない迅速な動きで最終確認を行う
ミサイルのロックオンシステム
安全装置の解除
全ては完璧に同期されていた
「ファルコンリーダーより全機へ。攻撃許可。目標を直ちに排除せよ!」
ついに下された攻撃命令
それは国家の静かなる怒りの公式な表明だった
「ラジャ!」
各機から短く力強い返答が続く
次の瞬間
翼下のハードポイントから白い機体が滑り出す
AAM-4B空対空誘導弾
そして対艦攻撃用のASM-3
最新鋭のミサイルたちが目標へとその牙を剥いた
ウィーン……
空気を切り裂く甲高い音と共にミサイルは発射炎を噴き出す
目標へと凄まじい速度で加速していく
7機のF-35から次々と放たれる無数のミサイル
その光の軌跡が夜空に一瞬の閃光を描いた
巨大貨物船は無数の脅威の接近に気づくことすらなかっただろう
あるいは気づいたとしても対抗する術はなかった
最初に船体中央部へ強烈な衝撃が走る
轟音と共に紅蓮の炎が夜の海を照らし出した
続いて次々とミサイルが船の重要箇所へと命中していく
巨大な鉄の塊はたちまち海上の地獄と化した
激しい爆発音
舞い上がる黒煙と炎の柱
船体は中央から二つに折れ海面には積荷の油が黒い染みを広げていく
「こちらファルコンリーダー。目標爆撃完了。炎上確認」
リーダー機が冷静に戦果を報告する
「全機帰還する!」
新たな指令が下りF-35の編隊は目標を後に来た道を戻っていく
彼らの背後にはただ紅蓮の炎を上げ続ける巨大な船の残骸だけが残されていた
夜空の静寂が再び訪れる
だがその静寂の裏には国家の断固たる意志とそして一つの時代の終わりが確かに刻まれていた