八咫烏ファイル
第十六章:エピローグ①
第十六章:エピローグ①
【夜探偵事務所】
事務所の中は重い沈黙に支配されていた
ソファに座る璃夏と小里
その向かい側に座る健太
三人はただ無言でテーブルの上の冷めきったコーヒーを見つめている
まるでお通夜だった
その時だった
ビルの外に一台の高級車が停まる気配がした
やがてコツコツコツと
ハイヒールが階段を登ってくる音が近づいてくる
バンッ!
事務所の扉が乱暴に開け放たれた
そこに立っていたのはいつものスーツ姿の夜だった
璃夏小里健太の三人が一斉に入り口を見る
夜はその三人に手のひらを向けた
そして第一声こう言い放つ
「今回の件に関して一切の質問は受け付けない!」
「それ以外なら話して良し」
「以上!」
璃夏小里健太は顔を見合わせて困惑するしかなかった
健太がおずおずと口を開く
健太「ととりあえずお元気……ですか……?」
夜「なんだそりゃ?」
夜「私が病人に見えるか?」
彼女は凛として言い放った
璃夏「た滝沢さんは……ご無事なのでしょうか?」
璃夏が震える声で尋ねる
夜「ん?滝沢?」
夜は不思議そうな顔をした
夜「あいつなら自分の家に帰ったんじゃないの?」
璃夏「あの……!関東誠勇会の本部がCTに襲撃されてしまって……」
璃夏「それで私たちは滝沢さんのアジトから逃げてきたんです」
小里「本部はもうメチャクチャです」
小里が付け加える
小里「かなりの死人も出ています。今頃は警察が現場検証やらでビルは完全に封鎖されているはず……」
夜はそこで初めて小里の存在に気づいたかのように彼を指差した
夜「てかあんた誰?」
小里「あ!申し遅れました!」
小里は立ち上がり深々と頭を下げる
小里「私滝沢さんと璃夏さんの世話役のようなことをしております小里と申します!」
夜「……そうなんですね」
夜はすっと表情を変えるとスーツの内ポケットから名刺を取り出した
夜「夜探偵事務所所長の山本夜です。どうも」
健太「(急に礼儀正しくなるんだ……)」
健太がボソッと呟いた
夜「あ?」
夜の鋭い視線が健太を射抜く
健太「いえ!なんでもありません!」
夜は再び思考を巡らせた
そして心底不思議そうな顔で呟く
「てことは……」
「滝沢の奴一体どこに帰るつもりなんだ?」