八咫烏ファイル
【関東誠勇会本部前】
滝沢を乗せた黒い高級車がビルの前に到着した
しかしその光景に滝沢は眉をひそめる
関東誠勇会本部は黄色と黒の規制テープで完全に封鎖されていた
おびただしい数のパトカーと捜査員
とても中に入れる状況ではなかった
滝沢「あ?どうなってやがる」
運転手「いかがなされますか?」
運転手がバックミラー越しに尋ねる
滝沢「……少し待て」
滝沢はスマホを取り出すと璃夏の番号を呼び出した
『滝沢さん!』
電話の向こうから璃夏の安堵したような声が聞こえる
滝沢「おい!こりゃどうなってる?」
璃夏『え?どうって……?』
滝沢「なんで関東誠勇会の本部が警察に封鎖されてんだよ!」
璃夏『あ!すみません!CTに襲撃されてしまって私と小里さんは逃げてきたんです』
璃夏『あの地下の下水道から……』
滝沢「……なんでさっき会った時に言わなかった」
その声は心底呆れていた
璃夏『い言うタイミングがなかったというか……』
璃夏『忘れてたというか……』
滝沢「はぁー……」
深いため息が漏れる
滝沢「で?今どこにいる?」
璃夏『夜探偵事務所です』
滝沢は無言で電話を切った
そして運転手に一言告げる
「……新宿だ。夜探偵事務所に向かえ」
【30分後・夜探偵事務所】
バンッ!
事務所の扉が勢いよく開け放たれた
そこに立っていたのは不機嫌を隠そうともしない滝沢だった
「よう滝沢」
デスクに座っていた夜が笑いながら片手を上げる
滝沢「よう!じゃあねぇんだよ……ったく」
ソファから璃夏が飛び出してきて滝沢の前で何度も頭を下げた
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
滝沢はそんな璃夏を一瞥するとドカッとソファに深く腰を下ろした
「家なき子滝沢」
夜が面白そうに言う
「これからどうすんの?」
滝沢「うるせぇよ」
滝沢は吐き捨てる
滝沢「しばらくホテル暮らしでもするしかねぇだろ」
「でしたら!」
今まで黙っていた小里が勢いよく立ち上がった
「今から私が最高のホテルを取ってきます!」
滝沢「あぁ頼む」
「ちょっと待った!」
夜の声が響いた
滝沢「ん?」
「なんだかんだ皆大変だったわけだし」
夜はニヤリと笑った
「このまま今日はここで打ち上げしない?」
その一言で事務所の空気が変わった
璃夏「いいですね!」
璃夏「夜さん飲みましょう!」
健太「じゃあ俺お酒買ってきます!」
小里「おお!俺も一緒に行きます!」
健太が立ち上がったその時
夜はどこからか取り出した一つの財布を彼に放り投げた
「これで好きなだけ買ってきな」
健太「はい!」
滝沢「……おい」
滝沢の声が低くなる
「それ……俺の財布じゃねぇか!」
「いつの間にすりやがった!」
夜は答えない
ただケラケラと腹を抱えて笑っている
その楽しそうな笑い声は長い長い夜の終わりを告げるファンファーレのようだった