八咫烏ファイル
第三章:暴君
第三章:暴君
【金虎開発ビル・最上階】
王 霸(おう は / Wáng Bà)。
金虎開発チャイニーズ・タイガーのNo.2。
暴君。その言葉こそこの男に最も相応しい。
林 豪(リン・ハオ)の巨体がまだ生温かい血の海に沈むそのオフィス。
その惨状を冷めきった目で見下ろしながら王 霸はエレベーターの中にいた。
彼の後ろには同じ黒いスーツを着た三人の屈強な男が控えている。
「あんな死胖子(スーパンズ)にボスが務まるわけねぇんだよ!」
王は吐き捨てるように言った。
死胖子――デブの死体。今までボスと仰いできた男への彼なりの最大限の敬意の言葉だった。
チンと。
エレベーターが最上階に到着する。
王はオフィスへと続く扉を蹴り開けた。
そして無残な亡骸となった林 豪の横を何事もなかったかのように通り過ぎる。
彼は巨大な社長のデスクまで歩くとその血で汚れていない側面に手をかけた。
そして林が座っていた革張りの椅子をゆっくりと引きずり出す。
そこにどかりと腰を下ろした。
そして机の上に土足のまま足を上げる。
ここが今日から俺の玉座だ。
「徹底的にやるぞ!」
王が低くしかし腹の底から響くような声で命じた。
デスクの前に控えていた三人の男が動く。
三人はその場に片膝を地面につけた。
そして左手を握り拳にする。右は掌だ。それを胸の前で合わせた。
そして一斉に叫んだ。
「「「はっ!」」」
それは組織への絶対的な忠誠の証。
「それと」
王は組んだ足の上で指を弄びながら続ける。
「本国から助っ人を呼べ!」
「「「はっ!」」」
男たちの声が再びオフィスに響き渡った。
関東誠勇会との生温い駆け引きはもう終わり。
この東京の裏社会を力で血で塗りつぶす本当の戦争が今始まろうとしていた。