靴に魔法をかけたのは
「他店調査っていうか研究っていうか」
「今日は休みだろ。ワーカホリックすぎる」

「ほっといてよ。海戸くんは?」
「他店調査」

「人のこと言えないじゃん」
「まあな」
 にやっと笑って晴佳の隣に座り、彼は水を持ってきた店員にコーヒーを注文した。

「で、成果は?」
 晴佳はタブレットを彼に見せた。
「CDショップの展示が立体的で面白かった。書店の感想付き手書きポップも良かった。リアルな感想って訴求力が高いじゃない? 子供向けのマンガでモンスターファンタジーってあるじゃない? あれは書店のコメントで人気に火が付いたらしいよ」

「ポップに依存したやり方もマイナスにならないか? 店の雰囲気が安くなる危険がある」
「『ハッピー』ならいける」
「そうか」
 届いたコーヒーを飲み、諒は頷く。

「このあとはまた他店調査か?」
「そのつもり」

「お前って、本当に恋より仕事だな。目がきらきらしてるぞ」
 諒は眩しい物を見るように目を細めた。
「達成感も充実感もあるし、恋愛よりよっぽどアドレナリンが出る」
 晴佳の顔は自然とほころんでいた。自分に合う靴を「発見」して買っていくお客様の嬉しそうな笑顔がなによりもの幸福だ。
 入社式では、晴佳は諒に対して最悪に失礼だった。

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