靴に魔法をかけたのは
会議室は三階だ。待つより早い、と晴佳は階段を上がっていく。
踊り場へと右足をかけ、左足を上げようとした瞬間、靴がすっぽぬけた。
「あ!」
慌てて振り返ると、靴はころころところがり落ち、下にいた男性の足元で止まった。
「ごめん、それ私の」
声をかけると、同期の彼は苦笑を見せた。
「持ってくから待ってろ」
彼は靴を拾い、長い脚でひょいひょいと一段とばしに上ってくる。動きにつれて、胸元の『海戸諒』と書かれた名札が揺れた。
彼は数段下で立ち止まって跪き、彼女の足元に恭しく靴を置いた。
「どうぞ、シンデレラ」
「ありがと」
靴を履いた晴佳は、とんとん、とかかとで床を叩いた。紐のない革靴では必要ないのだが、スニーカーでやっているので癖になっていた。つま先でやると足を圧迫する可能性があるのでよくないと言われている。かかとを軽く叩いてはき心地を合わせたのちに紐できゅっと締めるのがスニーカーをぴったりとはくコツだ。
彼は残り数段を上って隣に立った。
並ぶと、頭ひとつ分、彼のほうが背が高い。
額で分けた黒髪は優雅に流れ、清潔感に溢れている。そのうえ、スタイルが良くてスーツがものすごくさまになる。彼なら安い吊るしのスーツだってたちまちオーダーメイドのようにフィットし、高級感が漂う。こんな男から商品を勧められれば、自分もスタイルよくなると錯覚して買ってしまうにちがいない。まったく罪な男だな、と晴佳は思う。
誰もが認めるイケメンっぷりだが、だからといって、彼には恋をしなかった。入社式では初対面で失言してしまい、印象は最悪だっただろうに、今では仲のいい友達だ。
踊り場へと右足をかけ、左足を上げようとした瞬間、靴がすっぽぬけた。
「あ!」
慌てて振り返ると、靴はころころところがり落ち、下にいた男性の足元で止まった。
「ごめん、それ私の」
声をかけると、同期の彼は苦笑を見せた。
「持ってくから待ってろ」
彼は靴を拾い、長い脚でひょいひょいと一段とばしに上ってくる。動きにつれて、胸元の『海戸諒』と書かれた名札が揺れた。
彼は数段下で立ち止まって跪き、彼女の足元に恭しく靴を置いた。
「どうぞ、シンデレラ」
「ありがと」
靴を履いた晴佳は、とんとん、とかかとで床を叩いた。紐のない革靴では必要ないのだが、スニーカーでやっているので癖になっていた。つま先でやると足を圧迫する可能性があるのでよくないと言われている。かかとを軽く叩いてはき心地を合わせたのちに紐できゅっと締めるのがスニーカーをぴったりとはくコツだ。
彼は残り数段を上って隣に立った。
並ぶと、頭ひとつ分、彼のほうが背が高い。
額で分けた黒髪は優雅に流れ、清潔感に溢れている。そのうえ、スタイルが良くてスーツがものすごくさまになる。彼なら安い吊るしのスーツだってたちまちオーダーメイドのようにフィットし、高級感が漂う。こんな男から商品を勧められれば、自分もスタイルよくなると錯覚して買ってしまうにちがいない。まったく罪な男だな、と晴佳は思う。
誰もが認めるイケメンっぷりだが、だからといって、彼には恋をしなかった。入社式では初対面で失言してしまい、印象は最悪だっただろうに、今では仲のいい友達だ。