靴に魔法をかけたのは
「さんきゅ、助かった」
「いいえ、お力になれてうれしいです」
 答える皐月の瞳はキャンディのような甘さに満ちていた。

 気付いた直後、晴佳は電撃に撃たれたように硬直した。
 海戸はシャツをひっぱって汚れを確認していて、皐月のまなざしに気付いていない。

 振り返った皐月は晴佳と目が合うと、はっとしたようにうつむいた。
「さっすが皐月ちゃん。お嫁さんにしたい女性ナンバーワン!」
 晴佳はとっさに茶化したが、なんだか白々しく響いた。

「ありがとうございます」
 皐月の声も、どことなく固く聞こえた。
「お前はちったあ関内ちゃんを見習え」
 海戸のつっこみに、晴佳は、ははっと笑うことしかできなかった。

 ランチを終えて店に帰る車の中、晴佳は皐月の甘い視線の意味を考える。
 どう考えても恋する女性のまなざしとしか思えなかった。

「気付かなかったぁ」
 赤信号で止まり、運転席の窓によりかかる。
 三人の間に恋なんて邪魔者は入る余地がなく、ずっと友情が続くのだと思っていた。

 店長会議のあとに皐月がお菓子を持って待っていたのも、彼に会いたいからだろうか。気が付かずに恋路を邪魔していたのか。ふたりでランチに行けたほうがうれしかっただろう。

「ふたりがつきあったら、私って邪魔者じゃん」
 店長会議のあとのランチも、ふたりの間に入るみたいで気まずくなるだろうか。ふたりが結婚したら、今までみたいに海戸と他店調査に行くこともできないだろう。

「やだなあ」
 はあ、とため息をついたとき、後ろからクラクションが鳴らされた。
 信号はとっくに青になっていて、晴佳は慌てて車を発進させる。
 道は渋滞しており、お店に帰るにはひどく時間がかかった。
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