靴に魔法をかけたのは
「気を付けてくださいね」
「ありがと!」
 振り向きもせず皐月に答え、晴佳は走る。
 なんだか今は、諒と皐月が一緒にいるところを見たくなかった。



 店に帰ってからも部長に注意されたショックが続いており、晴佳はため息をこぼした。
 憂鬱に拍車をかけたのは、脳裏にちらつく諒と皐月だ。
「あの、いいですか?」
 男性客に声をかけられ、はっとする。
 今はまだ仕事中なんだ。しっかりしろ。
 心の中で叱咤して、作り笑顔を顔にはりつける。

「なんでしょう」
「歩きやすい靴を探していて……どんなのがいいんでしょう」
「ウォーキングでお使いですか?」
「普段の仕事ではくやつで……」
 お客様の要望を聞き、それでは、と紳士靴のコーナーに連れて行く。

「レザーソールは高級(ハイグレード)感がありますが、グリップ力が弱いので雨の日は滑ることがあります。ラバーのほうがクッション性があって歩きやすいです。つま先(トゥ)の切り替えが横一文字になってるストレートチップシューズは定番で……」
 晴佳はどんどん説明していく。

 が、しばらくして彼は、はあっとため息をついた。
「もういいよ。ネットで話題になってたから来たけど、説明がわかりづらいし、シンデレラコーナーもしょぼいし、女物ばっかり力入れてるし」
 言い捨て、お客様は店を出て行った。
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