靴に魔法をかけたのは
「靴で幸せになる物語なら、長靴をはいた猫のほうが好きですね。猫が活躍するんで」
 芽瑠が言う。

「猫が魔王を倒すんだっけ?」
「そうです。猫が仕えてる三男がなにもしないんですけどねー。シンデレラと同じ作者なんですよ。どちらも民話をまとめて作った話らしいですけど」
「知らなかった」
 芽瑠の言葉に頷いたときだった。

 びー! っと防犯機の音がして、晴佳と芽瑠ははっと出入り口を見る。
 と、制服の女子中学生が靴の箱を手にだだっと走り出すのが見えた。

「待ちなさい!」
 晴佳はとっさに追いかけた。
 女子中学生は店の外で靴がすっぽぬけて転んだ。その間に追い付き、立ち上がった彼女の手を掴む。もう片方の手には、セールのシールが貼られた靴箱があった。中身はしゃれっ気のないスニーカーだ。

「靴をはき直して、こっち来て」
 彼女は素直に言うことを聞き、ついてきた。歩き方がおかしくて、よく見ると靴底の一部がはがれかけていた。
 芽瑠に店を頼み、彼女をバックルームに連れて行く。

 バックルームは最低限のものしかない。小さなロッカーに小さな机。表に出しきれなかった靴の在庫が壁際に山と積まれ、圧迫感がある。彼女と一緒にはいるともういっぱいだ。
「万引きは犯罪だってわかってるよね?」
 彼女はうつむき、なにも答えない。晴佳はため息をついた。

「警察を呼ぶからね」
 彼女は顔をあおざめさせ、わずかに首を振った。
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