靴に魔法をかけたのは
「ごめんなさい……お金なくて……ごめんなさい」
「それでも盗ってはいけないの。盗んだもので幸せになんてなれないよ」
 少女はわずかに顔をあげて晴佳を見た。
 目は絶望したように真っ暗で、晴佳はたじろいだ。

 顔をはっきり見たことで、あのときの女子中学生だ、と気が付いた。平日の昼間に来て、なにかに怯えていたような子。
 彼女の連絡先を確認したのち、晴佳は警察を呼ぶ。
 警察に彼女を引き渡したあと、晴佳はため息をついて椅子にかける。

「私の店づくりが悪いのかな」
 万引きを減らすために死角をなくしたり店内の巡回を増やしたり、さまざまな工夫をしてきた。
 だが、あのとき、棚替えをしていたために店内への注意は怠っていた。
「……店、戻らないと」
 なんとか店に戻ったものの、客足は途絶え、芽瑠と一緒にずっと棚の掃除を続けた。



 思いがけない連絡が来たのは夕方だった。
 鳴り響いた電話に出た晴佳は、店名を名乗る。
「はい、シューズショップハッピーです」
『もっちー? 俺だけど』
 諒の声に、皐月の顔が浮かんでどきっとした。が、平静を装って答える。

「なに?」
『紳士靴で客注が入ってさ。データ上ではそっちに在庫があるから、取り置きを頼みたい』
 諒が型番を告げる。棚を探すとそれはすぐに見つかった。

「あったよ、宅配で送る?」
『明日必要だから、これからとりにいく。移動の伝票よろしく』
「わかった」
 用件だけで、電話は切れた。
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