靴に魔法をかけたのは
「もっちー。また自費で新商品の試し履きしてるだろ」
 彼は晴佳の苗字の望月をもじってもっちーと呼ぶ。

「よく気付いたね。さすが老舗デパートに入っている紳士靴専門店『|gentlemen's agreement《ジェントルマン・アグリーメント》』の店長」
「お前だって店長だろ」
 茶化すように言われ、晴佳は笑う。

「海戸くんもやるでしょ、自費で試し履き」
「まあな。てかそれ、サイズ合ってんのか?」
「大きめに作られてるみたい。インソールで調整したら大丈夫かな? 革は伸びるから、お客様にはそれも説明しないと」
 革なら必ず伸びるわけでもないが、柔軟性があるため、合皮と比べて伸びる傾向にある。

 そのまま彼と一緒に階段を上って会議室に入り、隣同士に座った。
 会議には店長全員が集まる。ウェブ会議にしないのは、顔を合わせることに意味がある、小さい会社だからできることがある、と信じている社長の方針だ。

 とはいえ社長は出席せず、店舗運営部の部長が臨席して会議が始まる。
 各店舗の売り上げ、客の動向、店の問題などを話し合い、最後に部長が発言した。

「各店から企画を募ることになった。お客さんと接しているからこその発想があると思うので、提案があればぜひ出してもらいたい。詳細はメールする」
 部長の言葉に、晴佳の目がきらっと光った。

「では、本日の会議は以上となります」
 議長の言葉で全員が礼をして、いつも通りお昼に閉会となった。
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