靴に魔法をかけたのは
「商品部に頼まれた発注で桁を間違えてメール送っちゃって……受理されちゃったから、もうダメで。子ども向けのシューズなんですけど」
 ぼろぼろと涙をこぼす皐月に、晴佳はバッグからティッシュを出して渡す。
「ありが……ます」
 ひっくひっくとしゃくりあげるから、言葉が言葉になっていない。

 靴のストックはやっかいだ。五ミリ単位で一個ずつ在庫を持ったとして、売れ筋のサイズだけでもかなりの量になる。
 女性の靴なら二十二センチから二十四・五センチまでとして、六種類、一足ずつ置いておくだけでも六足を置かなければならない。カラーが違えばそれだけで二倍の在庫を持つことになる。需要が多いサイズは多めに持ちたいが、置き場所との戦いにもなる。
 桁を間違えたということは、少なくとも十倍の在庫だ。
 大人向けですら売れる見込みとの勝負なのに、少子化で物価高の現在、間違って発注したその子ども靴が、どれほど売れるのか。
 人が出払った会議室に皐月を連れていき、晴佳と諒がつきそった。

「さっき注意を受けて……課長は怒ってないよ、今後気を付けてって話だからって言ってくれたんですけど、でも」
「わかるよ。自分が許せないよね」
 晴佳の言葉に、皐月はしゃくりあげながら頷く。

「心配するな。俺たちが全部売るから」
「子ども向けのスポーツシューズなので……」
 ぐすん、と皐月が鼻をすする。
 晴佳がじとっと諒を見て、彼は気まずそうに目をそらした。

「大丈夫、お店の人を信じて。ちゃんと売るから。……あんまり泣くと体中の水がなくなっちゃうよ。飲み物買って来るね」
 晴佳はスマホをつかんで部屋を出た。
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