靴に魔法をかけたのは



 翌日のシフトは休みで、晴佳は家でぼーっとしていた。
 何もする気が起きずに、ベッドで座り込み、壁にもたれてスマホを眺める。
 ネット上の誰かのつぶやきを見ては、また次の誰かのつぶやきを見る。
 だが、まったく頭に入って来ない。

 浮かぶのは万引きの母子、昨日の諒と皐月の姿。
 あの女子中学生、靴が壊れてたな。あんな親だから買ってもらえなくて盗んだのかな。お金ないって言ってたのに正論で返したから、だからあんなに暗い目をしていたのかな。警察を呼ばずに注意だけで帰していたら、クレームもなかったのに。

『理想ばっか追ってると挫折したときにつらいぞ』
 涼の言葉が思い出され、晴佳はため息を吐いた。
 自分はお客様を幸せにしたいと思っていた。万引きなんて、それを疎外する敵でし

 靴底がべこべこと跳ねていた彼女の靴を思い出す。
かない。
 幸せへの道を歩くためには靴が必要だ。
 彼女には、そもそも歩いていくための靴がなかったのだ。
 だから万引きをした。が、それを自分が捕まえた。
 私が奪ってしまったのだろうか。幸せになるための靴を。——あるいは、逃げ出すための靴を。

 思い返せば、シンデレラは幸せを掴むために歩いたわけではない。
 彼女はどうして王子から逃げたのだろう。

 魔法が解けたら、みすぼらしい自分になるから? 元の姿を見られたら怒られると思ったから? 時間までに帰るようにと魔法使いに言われたから?
 それとも、王子と結婚しても幸せになれないと思っていたから?

 継母たちに召使のようにこき使われていたシンデレラ。王子と結婚した場合にはその環境の違いや常識の違いに苦しむのではないのだろうか。それがわかっていて逃げ出したのだとしたら。
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