靴に魔法をかけたのは
『もっちー、俺だけど。大丈夫か?』
 響いたのは諒の心配するような声。
 どうしよう、出る気がないのに出ちゃった。とはいえ、もう繋がっているのだ、ここで切ってしまうのも変に思われる。

「動画見てたからびっくりしたよぉ」
 平静を装って答えるが、心臓はばくばくと脈打っていた。
『……皐月ちゃんのことでうやむやになったけど、ショック受けてただろ』
 刹那、胸に痛みが走った。脳裏にはふたりが抱きしめ合う姿が浮かぶ。

『万引きのあれ』
 続いた言葉に、むしろほっとした。抱き合う姿にショックを受けたとは気付かれていないようだ。そもそも、彼は背を向けていたのだから気付くわけもない。

「だけど、どうしようもないから……」
『気分転換に出掛けようぜ』
「でも……」
 そんなの皐月ちゃんに悪い気がする。そう思うが、口にはできなかった。ふたりから交際を宣言されたわけではない。

『もう車を出したから。住所は変わってないだろ?』
 かつて彼に家に送ってもらったことがある。無邪気に友情を信じていたころに。
「ありがと……じゃ、今日だけ」

『おしゃれして待ってろよ。せっかく俺が迎えに行くんだから』
「なにそれ、図々しい」
 晴佳があきれると、ははっと笑って通話が切れた。
 彼女はため息をつき、はれぼったい目を隠すメイクを検索した。
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