靴に魔法をかけたのは



 迎えに来た諒はいつも通りで、晴佳は恨めしくなった。自分はこんなに悩んでいるのに。
「どうした? 俺の顔になにかついてる?」
「べつに」
 言って、助手席に乗り込む。が、直後に落ち着かなくなった。やっぱり皐月に悪い気がする。
 諒はかまわず運転席に乗り込み、走り出す。

「どこ行くの?」
「たぶん、お前の好きなとこ」
 晴佳は首をかしげる。
 車は都心に向かい、駅からほど近い商店街の駐車場に止まった。

「ここって……」
 車を降りた晴佳はどこに向かうのかを察して、諒を見た。
 先に降りていた彼はにやっと笑って彼女の手を握り、ぐいぐいとひっぱって行く。
「待ってよ!」
 手をつなぐなんて。皐月ちゃんがいるのに。

 すぐに理由に気が付き、落ち込んだ。
 自分をなんとも思ってないから手をつなげるんだ。いつだってそう。頭をぽんとしたりわしゃわしゃしたり、彼は自分を女と思ってない。それが心地よかった……つい昨日までは。

 連れていかれた場所は、更地だった。剥き出しの地面に半ば枯れた草が生えている。
「シューズショップハッピーの本店だった場所。今は売地だ」
 諒の説明に、晴佳は頷く。

「知ってる。社長、スタートした場所だからだいぶ迷ったんだってね。だけど次に進むために売ることにしたって」
「両手に物を持ってたら、それ以上は持てない。だから、より大きなものを手に入れるために手離した。だけど、大切なスタート地点であることに変わりはない」
 慈しむように細まった諒の目が晴佳を捉える。
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