とある伯爵と不遇な男爵夫人の計画~虐げられるだけの結婚生活は捨てます~
第10話
「っぷ……食べすぎちゃったかしら……」
リューゼスト伯爵邸は本当に自由! 出来ればずっとここにいたいと思ってしまう位には満喫している。
とはいえ、このまま何にもしないというのはちょっと申し訳なかったので、コックに申し出て料理の手伝いをしたりして時間をつぶしていた。
今も、ランチに向けて野菜をざくざく切るという下処理をしているのだが、朝食にスクランブルエッグと焼きソーセージ5本、サラダと穀物パンに野菜スープにデザートの果物を調子に乗って食べ過ぎた結果、お腹がはちきれそうだ……。
「葉野菜はこれくらいでどうでしょうか?」
「ユーティア様、それくらいで大丈夫ですよ!」
快活なコックと調理担当メイドとはすぐに打ち解けられた。彼らと話しているとあっという間に時間が過ぎてしまう位。
ああ、そういえばここにいて3日間は経つわね。あれからリューゼスト伯爵の姿はお見かけしていないけど……大丈夫かしら? マレナお義母様とかが変な事してなければいいけど。
「主様がお戻りになりました!」
このタイミングでメイドがひとり、調理場へと姿を現した。リューゼスト伯爵が戻って来たのね。
「ユーティア様、お迎えにはいかないのですか?」
「あっ……行った方がいいですよね!」
いけない。ついぼーーっとしている所だった。包丁を水洗いしてから専用のカバーの中に収め、玄関ホールまで小走りで向かう。
「ユーティアさん。お久しぶりです」
「リューゼスト伯爵! おかえりなさい……!」
玄関ホールには、何やら書類の束を抱えたリューゼスト伯爵が立っていた。
久しぶりに見たリューゼスト伯爵の顔は少しだけ疲れているように見える。それだけ大変だったのね。
「ユーティアさんは充実した生活を送れているようですね。何よりです」
「いえいえ、皆さんのおかげです。そしてリューゼスト伯爵のおかげでもあります。羽を伸ばせました」
「それならよかった。では、今までの出来事と今後どうするかについてお話ししたいので、少しよろしいですか?」
彼に手招きされ、ついていった先は面談室。ふかふかの赤いソファに腰掛けると、リューゼスト伯爵が持っていた書類のうちの1枚を手渡される。
「まずはこちらをお読みください」
「これは……!」
書類に書いてあったのは、エレミー男爵家の爵位剥奪についてだった。
「その書類に書かれてある通り、国王陛下よりエレミー男爵家は爵位を剥奪され、平民の地位になりました」
「……!」
あの3人が貴族では無くなった。それを聞いただけでお腹の底からざまぁみろ。という感情が沸き起こる。
「男爵夫人を過労で死なせた罪によるものです。平民なら刑務所行きですが、貴族と言う事で爵位剥奪で済んだ。という具合ですね」
「そ、そうですか……」
嘘でこれだけの大事になるなんて。と後から不安感に似た気持ちが湧いてくるけど、こうでもしないと本当に死ぬまで地獄を見る羽目になるだろうし。うん。リューゼスト伯爵には感謝してもしきれない。
「葬式後に医者が書いた報告書を国王陛下に持っていきましてね。それで決まった事です。ああ、葬式自体は問題なく執り行われましたのでご心配なく」
さらに葬式がちゃんと執り行われたと言う事にほっと息を吐いて安堵する。これで正真正銘、私ユーティア・エレミ―は死んだ事になった。
「それで……3人は……」
本当は聞かなくても良い事かもしれないけど、一応は聞いておく。
「マレナ様……ああ、もう様付けする必要はないですね。マレナの実家に戻りました」
そういえばマレナお義母様のご実家は男爵家だったわね。そこにいるのか……。
「ヴェリテ伯爵との婚約も破棄され、今は3人とも平民の地位という事で、マレナのご実家である男爵家では使用人として扱われているそうです」
実家の男爵家としては最初、3人を受け入れるつもりはなかったみたい。しかしマレナとクララがかなり抵抗を見せたため渋々受け入れたとか。
だが、男爵家としても体裁を保ちたいので彼らをただ受け入れる事はせず、使用人として扱う事にしたみたい。
「そしてあなたの今後です。あなたは死んだ身となりましたが、いかがなさいますか?」
「そうですねえ……」
「もし嘘だとバラして、それが国王陛下の耳に届いても、あなたが理不尽に扱われてきていた証拠はしっかりありますから、無罪放免にはなるでしょう」
名前を変えて、どこかの食道とかで働いてみたいと言う気持ちはある。食堂でのお手伝い楽しかったし。
「名前を変えて平民として生きようと思います。それで食に関する仕事について、自由に過ごします」
「ふむ」
ここでリューゼスト伯爵が驚きと残念さが入り混じったかのような表情に変わった。私、何かいけない事でも言ったかしら……?
「すみません、どうされました?」
「ああ、その……ユーティアさんの夢なら、応援してやらないと。と思ってましたね」
「? そうですか。応援してくださるのはとても嬉しいです」
ここでコック長が私を呼びに来たので、私はリューゼスト伯爵に頭を下げてから厨房へと戻る。
さっきのリューゼスト伯爵の表情は何だったのかしら……?
リューゼスト伯爵邸は本当に自由! 出来ればずっとここにいたいと思ってしまう位には満喫している。
とはいえ、このまま何にもしないというのはちょっと申し訳なかったので、コックに申し出て料理の手伝いをしたりして時間をつぶしていた。
今も、ランチに向けて野菜をざくざく切るという下処理をしているのだが、朝食にスクランブルエッグと焼きソーセージ5本、サラダと穀物パンに野菜スープにデザートの果物を調子に乗って食べ過ぎた結果、お腹がはちきれそうだ……。
「葉野菜はこれくらいでどうでしょうか?」
「ユーティア様、それくらいで大丈夫ですよ!」
快活なコックと調理担当メイドとはすぐに打ち解けられた。彼らと話しているとあっという間に時間が過ぎてしまう位。
ああ、そういえばここにいて3日間は経つわね。あれからリューゼスト伯爵の姿はお見かけしていないけど……大丈夫かしら? マレナお義母様とかが変な事してなければいいけど。
「主様がお戻りになりました!」
このタイミングでメイドがひとり、調理場へと姿を現した。リューゼスト伯爵が戻って来たのね。
「ユーティア様、お迎えにはいかないのですか?」
「あっ……行った方がいいですよね!」
いけない。ついぼーーっとしている所だった。包丁を水洗いしてから専用のカバーの中に収め、玄関ホールまで小走りで向かう。
「ユーティアさん。お久しぶりです」
「リューゼスト伯爵! おかえりなさい……!」
玄関ホールには、何やら書類の束を抱えたリューゼスト伯爵が立っていた。
久しぶりに見たリューゼスト伯爵の顔は少しだけ疲れているように見える。それだけ大変だったのね。
「ユーティアさんは充実した生活を送れているようですね。何よりです」
「いえいえ、皆さんのおかげです。そしてリューゼスト伯爵のおかげでもあります。羽を伸ばせました」
「それならよかった。では、今までの出来事と今後どうするかについてお話ししたいので、少しよろしいですか?」
彼に手招きされ、ついていった先は面談室。ふかふかの赤いソファに腰掛けると、リューゼスト伯爵が持っていた書類のうちの1枚を手渡される。
「まずはこちらをお読みください」
「これは……!」
書類に書いてあったのは、エレミー男爵家の爵位剥奪についてだった。
「その書類に書かれてある通り、国王陛下よりエレミー男爵家は爵位を剥奪され、平民の地位になりました」
「……!」
あの3人が貴族では無くなった。それを聞いただけでお腹の底からざまぁみろ。という感情が沸き起こる。
「男爵夫人を過労で死なせた罪によるものです。平民なら刑務所行きですが、貴族と言う事で爵位剥奪で済んだ。という具合ですね」
「そ、そうですか……」
嘘でこれだけの大事になるなんて。と後から不安感に似た気持ちが湧いてくるけど、こうでもしないと本当に死ぬまで地獄を見る羽目になるだろうし。うん。リューゼスト伯爵には感謝してもしきれない。
「葬式後に医者が書いた報告書を国王陛下に持っていきましてね。それで決まった事です。ああ、葬式自体は問題なく執り行われましたのでご心配なく」
さらに葬式がちゃんと執り行われたと言う事にほっと息を吐いて安堵する。これで正真正銘、私ユーティア・エレミ―は死んだ事になった。
「それで……3人は……」
本当は聞かなくても良い事かもしれないけど、一応は聞いておく。
「マレナ様……ああ、もう様付けする必要はないですね。マレナの実家に戻りました」
そういえばマレナお義母様のご実家は男爵家だったわね。そこにいるのか……。
「ヴェリテ伯爵との婚約も破棄され、今は3人とも平民の地位という事で、マレナのご実家である男爵家では使用人として扱われているそうです」
実家の男爵家としては最初、3人を受け入れるつもりはなかったみたい。しかしマレナとクララがかなり抵抗を見せたため渋々受け入れたとか。
だが、男爵家としても体裁を保ちたいので彼らをただ受け入れる事はせず、使用人として扱う事にしたみたい。
「そしてあなたの今後です。あなたは死んだ身となりましたが、いかがなさいますか?」
「そうですねえ……」
「もし嘘だとバラして、それが国王陛下の耳に届いても、あなたが理不尽に扱われてきていた証拠はしっかりありますから、無罪放免にはなるでしょう」
名前を変えて、どこかの食道とかで働いてみたいと言う気持ちはある。食堂でのお手伝い楽しかったし。
「名前を変えて平民として生きようと思います。それで食に関する仕事について、自由に過ごします」
「ふむ」
ここでリューゼスト伯爵が驚きと残念さが入り混じったかのような表情に変わった。私、何かいけない事でも言ったかしら……?
「すみません、どうされました?」
「ああ、その……ユーティアさんの夢なら、応援してやらないと。と思ってましたね」
「? そうですか。応援してくださるのはとても嬉しいです」
ここでコック長が私を呼びに来たので、私はリューゼスト伯爵に頭を下げてから厨房へと戻る。
さっきのリューゼスト伯爵の表情は何だったのかしら……?