悲劇のセイレーンにささやかな愛を
──ドンッ
「うぐぅっ⁉︎ ……なんだお前っ」
近くの壁に男を蹴り上げる。
小さい頃に習っていた空手と柔道がこんな時に役に立つなんて。
「気安く触んな、見苦しい」
小さく吐き捨てると、男は一目散に逃げて行った。
数秒たち、我に返る。
ハッと澪の方を見ると、俺の方を見て呆然としていた。
……まずい、やってしまった。
慌てて土下座する。
「ごめん、本当に申し訳ない、怖かったよな」
小さな事に何度も怯えていた澪のことだ、今のことは最悪トラウマになってしまったり……
「っ、」
しゃがみ込み、俺の顔を覗き込んだ澪。
そのまま顔を寄せたかと思うと……
『しすいのは怖くないよ。かっこよかった』
そう耳元で囁き、また俺を硬直させた。
しすい"の"は、怖くなかった……?
じゃあ、他の奴"の"は、どうだったんだよ……。