【コンテスト用シナリオ】恋は光の色をして私たちに降る
第二話 好きだなんて
◯大衆居酒屋・夜・賑やかな声がする騒がしい店内・定期的にある大学の飲み会
美月「えー!依澄君って一人暮らしなんだ!」
緩やかなふわふわウェーブで茶髪の華やかな見た目の女子が依澄にボディタッチをしながら話しかける
依澄「まぁ」
依澄は目線を合わせることなくグラスに口をつけて頷きにも近い返事をする
美月「ねぇ今度遊びに行ってもいい?」
依澄「それはちょっと」
さらに体を密着させてくる女子から距離を取る
莉央「えー?何で?彼女いるとか?」
依澄「いませんけど」
◯テーブルの端っこに座りながら烏龍茶に口をつけて依澄の周りを見渡す由良
由良(依澄君モテてるなぁ)
由良モノローグ(私はといえば、毎月定期的に開催される半分合コンみたいなこの飲み会で誰かと話すでもなくやることがないので適当に時間を潰しているだけ)
◯ガヤガヤした居酒屋ならではの声を聞きながらトイレに立つ由良
狭い通路を進んでいると
依澄「ねぇ」
と依澄に腕を掴まれ呼び止められる
人気のないところで立ち止まる二人
由良「依澄君、どうしたの?」
依澄「どうしたのって、席すごい遠くない?」
ちょっと怒ってるような悲しそうな声で由良を見つめる
由良「だって依澄君の隣は空いてないし座れる場所なんてあそこしかなかっ」
依澄「やだ」
由良の言葉を遮って子どもみたいに拗ねている
由良「ご、ごめん?あの、依澄君酔ってる?」
少し頬が赤い依澄が心配になりそっとその頬に触れた
由良「っ…やめて」
パシッと手を振り払い依澄はそのままみんながいる席へと戻っていった
由良「あ、ちょっと」
由良(何だったんだろう?やっぱり酔ってたよね)
◯大衆居酒屋のトイレの中(化粧室もあるところ)
トイレを済ませて個室から出ようとする由良は外から話し声が聞こえてきてドアノブを捻る手を止めた
名前無しA「依澄君めっちゃ良くない?」
美月「カッコいいよね。あたし本気で狙っちゃおうかな?」
由良(すごい会話を聞いてしまっている気がする)
個室から出るタイミングを完全に逃した由良はそのまま話を聞いている
名前無しB「えー?でも美月は彼氏いるじゃん〜」
名前無しA「そうそう!イケメンの年上彼氏」
由良(え?この人たち何を言ってるの?彼氏いるのに他の人にも手出すって考えられないんだけど)
美月「まぁね?でもそれとこれとは別。だって依澄君本当にカッコいいしなんて言うの?遊び相手にはちょうどいい」
由良「何言ってんの?」
◯美月が言い終わらないうちに由良はトイレの個室のドアを開けて怒る
美月「は?あんた誰」
由良「誰とかそんなのどうもいいでしょ。依澄君のことそんな風に軽く見ないでよ。大体彼氏いるのに手出すとかダサすぎ。馬鹿じゃないの?」
美月を嘲笑うかのように暴言を吐く由良に対して美月は言葉が出ずに手が出た
由良はパンッと頬を打たれて壁にもたれる
由良「そうやって言い返せないと手が出るんだ?彼氏がいても違う人と二股かけようとするしやってること全部子どもみたい」
美月「はぁ?!フザけんなよ!このっ」
名前無しB「ちょっと!美月ヤバいって!」
◯もう一回殴られるかと思いきやそれはある人の声で止められる
依澄「はいストップ」
依澄は無表情で振り下ろした美月の手首を掴んでそれを軽く捻る
依澄「ねぇ?君何してるの?この子僕の大切な子なんだけど」
依澄は由良が聞いたこともないような恐ろしく冷たい声でそう言い放った
由良「依澄君、大丈夫だから。ね?」
依澄の腕を掴み相手から離させる
その隙にトイレから逃げるように出て行こうとする3人に依澄は目を合わせずに言った
依澄「次こんなことしたらまじで俺あんたらのこと許さないから」
その怒気を含んだ声に震えながら3人は去って行く
依澄「由良ちゃん大丈夫?もう帰ろうこんな所」
依澄に手を引かれ由良はその場を後にした
◯居酒屋から出てすぐタクシーを拾う依澄
タクシーの後部座席に乗り込むふたり
お互いほとんど無言のまま車が走り出す
◯乗り込んだタクシー内
自宅の場所を運転手に言おうとする由良を依澄が右手で制して止めた
そして依澄が告げた場所は自身の自宅の住所
依澄「ほっぺた切れてる。手当てしなきゃだよ」
依澄は指で自分の頬をトントンと指さす
◯依澄の自宅にて
殺風景なリビング•間取りは学生の一人暮らしにしては広く感じる2DK
引越したててまだダンボールが数個片付いてない部屋
由良「お邪魔します…」
依澄「ごめんね。スリッパとかなくてさ」
由良「ううん!全然」
依澄「ここ座って?」
依澄に言われた通りにソファに座る由良
由良「ごめんね、何か巻き込んだみたいな」
キッチンでタオルを濡らす依澄に由良は申し訳なさそうにする
依澄「んー?別に?僕の方こそごめんね。こんな見た目じゃん?だから結構さっきみたいなこと言われちゃうんだ」
キッチンからタオル片手に戻ってきた依澄は由良の頬を優しく拭いながら悲しそうに笑った
由良にタオルを渡して少し冷やしてた方がいいよと伝えると体の向きをテーブルに向けた
由良「…聞いてたの?」
依澄「偶然だよ。なかなか由良ちゃんが帰ってこないから心配でさごめん。それにしても、あそこのトイレは会話がよく聞こえるね。次は絶対行かない」
そんな風に冗談めかして笑うその姿がとても悲し
依澄「僕さぁ、昔からなんだ。チャラそうとかモテそうとか。昔付き合ってた元カノにも見た目だけー、とか優しすぎてつまらないとか、そんなことばっかり言われてきちゃって。僕はその子が大切だっただけなんだけどね。本当笑える…」
由良「ううん、そんなことないよ。好きな人をどう大切にするかなんてみんな違うもん。きっとその人達は依澄君の良さをちゃんと知らないまま別れちゃったんだね。だからさそんな悲しい顔で笑わないでよ。依澄君はいつもの笑顔が似合うよ」
◯依澄は突然体の向きを変えて由良の頬に手を添え頼りない指で優しく撫でた
由良は驚いてを竦め、その瞬間手から力が抜けタオルがソファの下にするりと落ちて行く
依澄「由良ちゃんは何でそんなに優しいの?」
◯甘い瞳をしながら顔がくっついてしまうんじゃないかというくらいの距離
由良「え…?」
由良(な、なんか近くない?」
まるで好きな人にするみたいな目をして由良を見つめる依澄に急に恥ずかしくなりその顔を見れなくなる
俯いた由良の顎を依澄の大きな手のひらが優しく持ち上げて目が合うようにさせられた
そして由良と依澄が数秒見つめ合った後唐突に依澄はパッと手を離して
依澄「なーんてね。びっくりした?冗談だよ」
そうおどけてみせた
由良「な、何?冗談かぁ。もう!びっくりした」
由良はドキドキと鳴る心臓をキュッと抑えながらその顔を見た
依澄は一瞬ふと寂しそうな目をしてそれからすぐ笑顔になると
依澄「手当て終わり。跡にはならなさそうで良かった」
依澄「ひとりで帰れる?本当は送ってあげたいんだけどこの後僕予定があってさ」
◯腕時計を見る由良・時刻は21過ぎ
由良「うん、全然平気。こちらこそごめんね。あとありがとう。じゃあ、また明日」
遠慮がちに小さく胸の前で手を振る由良
◯帰り道駅前のコンビニへと寄る由良
店員のやる気のないいらっしゃいませが聞こえてくる
500mlの水を買い終わりコンビニの外へ出た
碧「由良?こんな時間に何してんの?」
由良「先生、何でここに」
慌ててミネラルウォータを落としそうになるのを何とか防ぐ由良
碧「何でって。普通に仕事終だけど」
なんて事ないように答える碧をよそに時刻はもうすぐ22時をさそうとしていた
碧「というかさ、その顔どうしたの?」
由良(あ、やば。すっかり忘れてた)
由良「何でもないです。それじゃあまた大学で」
反射的に手を顔に持っていき隠す由良
それでも碧は見逃すまいというように由良に一歩近づく
碧「何でもないわけないだろ。はぁ、もうこんな時間だし送ってく。こっちおいで」
ちらりと腕時計を見ながら優しげな声で由良に話す碧
由良(「こっちおいでって」そ、それは反則だよ先生)
碧は自分の車までついてこいと言わんばかりの言い方で由良の先を歩き出した
由良「まだ電車あるし大丈夫ですよ」
碧「駄目。その傷のことも聞いてないし」
と言い張られて結局送ってもらう羽目になり、碧の車の助手席へと促された
◯碧の車•色は黒色•助手席に座る由良
「で?何があったの」
運転しながら横目で由良を見て聞いてくる
答えないわけにはいかなそうな雰囲気で依澄のことをなるべく話題に出さないように簡単に一部始終を説明する
碧「は、何だそれ。なんていうやつ?」
(呆れたような怒ったような声)
由良「教えた所でどうするんですか」
碧「え?どうってそれは、ねぇ」
碧は黒い笑みを浮かべ赤信号で止まり由良を見つめる
由良「先生?変なこと考えないでくださいよ」
碧「はっ、変なことってなんだよ」
"冗談"と言って笑う碧は由良から見るとやはり大人で少し遠く感じる由良
由良「次の信号右です」
碧「りょーかい」
◯由良の住むアパート•すぐ目の前に車を停める
碧「はい、着いた」
由良「ありがとうございま、す」
由良がお礼を言い終わる前に腕を掴まれ助手席に再び戻される
由良「先生?」
碧は次の瞬間何も言わずにそっと由良の怪我した方の頬に触れた
由良「ひゃっ」
碧「…大丈夫か?」
真っ直ぐ見つめる碧の瞳に由良は緊張と驚きで目が合わせられず俯く
碧「由良?」
何も言わず俯いた由良が泣いているのかと勘違いして思わず顔を覗き込む碧
由良(えぇ?何が起きてるの?!か、顔近すぎる)
由良「な、え、だい、大丈夫です!」
勢いよく顔を上げて碧の手をそっと退かす由良
碧「あ、ごめん。急に触って」
今気づいたという風に碧がパッと手を顔の横にあげて何もしないという動きを取る
由良「いえ。そんな。では、また学校、で。」
碧「あぁ。気をつけてなってもう家だけど」
はにかんで笑うその姿が由良にはとても愛おしく見えた
由良「先生も、帰り気をつけて」
碧「ありがとう」
由良「あの依澄君は悪くないので。もし会っても今日のことは」
碧「分かってるよ。そんな心配はいいから早く家の中入りなさい」
由良「はぁい。先生みたい」
碧「みたいじゃなくて先生です。ほら」
由良「ふふ、じゃあまた。お休みなさい」
碧「おやすみ」
愛おしいものでも見るかのようなその眼差しに由良はドキッとしたまま軽く会釈をして家の中に入った
◯一人暮らしのアパート•玄関からひとつ扉を開ければ1DKの小さな部屋•小さい二人用のソファにぼすっと深く沈み込む
それと同時にさっきの先生の顔を思い出して胸が熱くなってくる由良
◯ 遠ざかる車のエンジン音を聞きながら由良(もし私が先生の彼女だったらな…)
◯依澄目線・由良が帰った後の玄関に背中をつけてずるずるとしゃがみ込む依澄
依澄「まいったなぁ…」
依澄(本当こんなつもりじゃなかったんだけどな)
依澄モノローグ(最初から知っていた。碧君が僕によく話す女の子が由良ちゃんだってこと。だってそんなの聞かなくても分かるほどに碧君が由良ちゃんを見つめる目は優しかったから)
◯依澄の編入時の回想シーン
依澄(最初は碧君を困らせてやろうくらいの軽い気持ちだったんだ。だから由良ちゃんに近づいてちょっと仲良くなってなんなら、僕のことを気にすればいいってそんな最低な事まで考えてて。でも、由良ちゃんはそんな僕にすらどこまでも真っ直ぐで優しくて一生懸命で)
依澄「そんなの好きになっちゃうでしょ…」
依澄(由良ちゃんの頬に触れた時、ふと我に返ったから良かったものの、体は正直なんて良く言うけど本当にそうだ)
依澄(キス、しようとしてたよな僕)
目を閉じて再び深く溜息をつく依澄
美月「えー!依澄君って一人暮らしなんだ!」
緩やかなふわふわウェーブで茶髪の華やかな見た目の女子が依澄にボディタッチをしながら話しかける
依澄「まぁ」
依澄は目線を合わせることなくグラスに口をつけて頷きにも近い返事をする
美月「ねぇ今度遊びに行ってもいい?」
依澄「それはちょっと」
さらに体を密着させてくる女子から距離を取る
莉央「えー?何で?彼女いるとか?」
依澄「いませんけど」
◯テーブルの端っこに座りながら烏龍茶に口をつけて依澄の周りを見渡す由良
由良(依澄君モテてるなぁ)
由良モノローグ(私はといえば、毎月定期的に開催される半分合コンみたいなこの飲み会で誰かと話すでもなくやることがないので適当に時間を潰しているだけ)
◯ガヤガヤした居酒屋ならではの声を聞きながらトイレに立つ由良
狭い通路を進んでいると
依澄「ねぇ」
と依澄に腕を掴まれ呼び止められる
人気のないところで立ち止まる二人
由良「依澄君、どうしたの?」
依澄「どうしたのって、席すごい遠くない?」
ちょっと怒ってるような悲しそうな声で由良を見つめる
由良「だって依澄君の隣は空いてないし座れる場所なんてあそこしかなかっ」
依澄「やだ」
由良の言葉を遮って子どもみたいに拗ねている
由良「ご、ごめん?あの、依澄君酔ってる?」
少し頬が赤い依澄が心配になりそっとその頬に触れた
由良「っ…やめて」
パシッと手を振り払い依澄はそのままみんながいる席へと戻っていった
由良「あ、ちょっと」
由良(何だったんだろう?やっぱり酔ってたよね)
◯大衆居酒屋のトイレの中(化粧室もあるところ)
トイレを済ませて個室から出ようとする由良は外から話し声が聞こえてきてドアノブを捻る手を止めた
名前無しA「依澄君めっちゃ良くない?」
美月「カッコいいよね。あたし本気で狙っちゃおうかな?」
由良(すごい会話を聞いてしまっている気がする)
個室から出るタイミングを完全に逃した由良はそのまま話を聞いている
名前無しB「えー?でも美月は彼氏いるじゃん〜」
名前無しA「そうそう!イケメンの年上彼氏」
由良(え?この人たち何を言ってるの?彼氏いるのに他の人にも手出すって考えられないんだけど)
美月「まぁね?でもそれとこれとは別。だって依澄君本当にカッコいいしなんて言うの?遊び相手にはちょうどいい」
由良「何言ってんの?」
◯美月が言い終わらないうちに由良はトイレの個室のドアを開けて怒る
美月「は?あんた誰」
由良「誰とかそんなのどうもいいでしょ。依澄君のことそんな風に軽く見ないでよ。大体彼氏いるのに手出すとかダサすぎ。馬鹿じゃないの?」
美月を嘲笑うかのように暴言を吐く由良に対して美月は言葉が出ずに手が出た
由良はパンッと頬を打たれて壁にもたれる
由良「そうやって言い返せないと手が出るんだ?彼氏がいても違う人と二股かけようとするしやってること全部子どもみたい」
美月「はぁ?!フザけんなよ!このっ」
名前無しB「ちょっと!美月ヤバいって!」
◯もう一回殴られるかと思いきやそれはある人の声で止められる
依澄「はいストップ」
依澄は無表情で振り下ろした美月の手首を掴んでそれを軽く捻る
依澄「ねぇ?君何してるの?この子僕の大切な子なんだけど」
依澄は由良が聞いたこともないような恐ろしく冷たい声でそう言い放った
由良「依澄君、大丈夫だから。ね?」
依澄の腕を掴み相手から離させる
その隙にトイレから逃げるように出て行こうとする3人に依澄は目を合わせずに言った
依澄「次こんなことしたらまじで俺あんたらのこと許さないから」
その怒気を含んだ声に震えながら3人は去って行く
依澄「由良ちゃん大丈夫?もう帰ろうこんな所」
依澄に手を引かれ由良はその場を後にした
◯居酒屋から出てすぐタクシーを拾う依澄
タクシーの後部座席に乗り込むふたり
お互いほとんど無言のまま車が走り出す
◯乗り込んだタクシー内
自宅の場所を運転手に言おうとする由良を依澄が右手で制して止めた
そして依澄が告げた場所は自身の自宅の住所
依澄「ほっぺた切れてる。手当てしなきゃだよ」
依澄は指で自分の頬をトントンと指さす
◯依澄の自宅にて
殺風景なリビング•間取りは学生の一人暮らしにしては広く感じる2DK
引越したててまだダンボールが数個片付いてない部屋
由良「お邪魔します…」
依澄「ごめんね。スリッパとかなくてさ」
由良「ううん!全然」
依澄「ここ座って?」
依澄に言われた通りにソファに座る由良
由良「ごめんね、何か巻き込んだみたいな」
キッチンでタオルを濡らす依澄に由良は申し訳なさそうにする
依澄「んー?別に?僕の方こそごめんね。こんな見た目じゃん?だから結構さっきみたいなこと言われちゃうんだ」
キッチンからタオル片手に戻ってきた依澄は由良の頬を優しく拭いながら悲しそうに笑った
由良にタオルを渡して少し冷やしてた方がいいよと伝えると体の向きをテーブルに向けた
由良「…聞いてたの?」
依澄「偶然だよ。なかなか由良ちゃんが帰ってこないから心配でさごめん。それにしても、あそこのトイレは会話がよく聞こえるね。次は絶対行かない」
そんな風に冗談めかして笑うその姿がとても悲し
依澄「僕さぁ、昔からなんだ。チャラそうとかモテそうとか。昔付き合ってた元カノにも見た目だけー、とか優しすぎてつまらないとか、そんなことばっかり言われてきちゃって。僕はその子が大切だっただけなんだけどね。本当笑える…」
由良「ううん、そんなことないよ。好きな人をどう大切にするかなんてみんな違うもん。きっとその人達は依澄君の良さをちゃんと知らないまま別れちゃったんだね。だからさそんな悲しい顔で笑わないでよ。依澄君はいつもの笑顔が似合うよ」
◯依澄は突然体の向きを変えて由良の頬に手を添え頼りない指で優しく撫でた
由良は驚いてを竦め、その瞬間手から力が抜けタオルがソファの下にするりと落ちて行く
依澄「由良ちゃんは何でそんなに優しいの?」
◯甘い瞳をしながら顔がくっついてしまうんじゃないかというくらいの距離
由良「え…?」
由良(な、なんか近くない?」
まるで好きな人にするみたいな目をして由良を見つめる依澄に急に恥ずかしくなりその顔を見れなくなる
俯いた由良の顎を依澄の大きな手のひらが優しく持ち上げて目が合うようにさせられた
そして由良と依澄が数秒見つめ合った後唐突に依澄はパッと手を離して
依澄「なーんてね。びっくりした?冗談だよ」
そうおどけてみせた
由良「な、何?冗談かぁ。もう!びっくりした」
由良はドキドキと鳴る心臓をキュッと抑えながらその顔を見た
依澄は一瞬ふと寂しそうな目をしてそれからすぐ笑顔になると
依澄「手当て終わり。跡にはならなさそうで良かった」
依澄「ひとりで帰れる?本当は送ってあげたいんだけどこの後僕予定があってさ」
◯腕時計を見る由良・時刻は21過ぎ
由良「うん、全然平気。こちらこそごめんね。あとありがとう。じゃあ、また明日」
遠慮がちに小さく胸の前で手を振る由良
◯帰り道駅前のコンビニへと寄る由良
店員のやる気のないいらっしゃいませが聞こえてくる
500mlの水を買い終わりコンビニの外へ出た
碧「由良?こんな時間に何してんの?」
由良「先生、何でここに」
慌ててミネラルウォータを落としそうになるのを何とか防ぐ由良
碧「何でって。普通に仕事終だけど」
なんて事ないように答える碧をよそに時刻はもうすぐ22時をさそうとしていた
碧「というかさ、その顔どうしたの?」
由良(あ、やば。すっかり忘れてた)
由良「何でもないです。それじゃあまた大学で」
反射的に手を顔に持っていき隠す由良
それでも碧は見逃すまいというように由良に一歩近づく
碧「何でもないわけないだろ。はぁ、もうこんな時間だし送ってく。こっちおいで」
ちらりと腕時計を見ながら優しげな声で由良に話す碧
由良(「こっちおいでって」そ、それは反則だよ先生)
碧は自分の車までついてこいと言わんばかりの言い方で由良の先を歩き出した
由良「まだ電車あるし大丈夫ですよ」
碧「駄目。その傷のことも聞いてないし」
と言い張られて結局送ってもらう羽目になり、碧の車の助手席へと促された
◯碧の車•色は黒色•助手席に座る由良
「で?何があったの」
運転しながら横目で由良を見て聞いてくる
答えないわけにはいかなそうな雰囲気で依澄のことをなるべく話題に出さないように簡単に一部始終を説明する
碧「は、何だそれ。なんていうやつ?」
(呆れたような怒ったような声)
由良「教えた所でどうするんですか」
碧「え?どうってそれは、ねぇ」
碧は黒い笑みを浮かべ赤信号で止まり由良を見つめる
由良「先生?変なこと考えないでくださいよ」
碧「はっ、変なことってなんだよ」
"冗談"と言って笑う碧は由良から見るとやはり大人で少し遠く感じる由良
由良「次の信号右です」
碧「りょーかい」
◯由良の住むアパート•すぐ目の前に車を停める
碧「はい、着いた」
由良「ありがとうございま、す」
由良がお礼を言い終わる前に腕を掴まれ助手席に再び戻される
由良「先生?」
碧は次の瞬間何も言わずにそっと由良の怪我した方の頬に触れた
由良「ひゃっ」
碧「…大丈夫か?」
真っ直ぐ見つめる碧の瞳に由良は緊張と驚きで目が合わせられず俯く
碧「由良?」
何も言わず俯いた由良が泣いているのかと勘違いして思わず顔を覗き込む碧
由良(えぇ?何が起きてるの?!か、顔近すぎる)
由良「な、え、だい、大丈夫です!」
勢いよく顔を上げて碧の手をそっと退かす由良
碧「あ、ごめん。急に触って」
今気づいたという風に碧がパッと手を顔の横にあげて何もしないという動きを取る
由良「いえ。そんな。では、また学校、で。」
碧「あぁ。気をつけてなってもう家だけど」
はにかんで笑うその姿が由良にはとても愛おしく見えた
由良「先生も、帰り気をつけて」
碧「ありがとう」
由良「あの依澄君は悪くないので。もし会っても今日のことは」
碧「分かってるよ。そんな心配はいいから早く家の中入りなさい」
由良「はぁい。先生みたい」
碧「みたいじゃなくて先生です。ほら」
由良「ふふ、じゃあまた。お休みなさい」
碧「おやすみ」
愛おしいものでも見るかのようなその眼差しに由良はドキッとしたまま軽く会釈をして家の中に入った
◯一人暮らしのアパート•玄関からひとつ扉を開ければ1DKの小さな部屋•小さい二人用のソファにぼすっと深く沈み込む
それと同時にさっきの先生の顔を思い出して胸が熱くなってくる由良
◯ 遠ざかる車のエンジン音を聞きながら由良(もし私が先生の彼女だったらな…)
◯依澄目線・由良が帰った後の玄関に背中をつけてずるずるとしゃがみ込む依澄
依澄「まいったなぁ…」
依澄(本当こんなつもりじゃなかったんだけどな)
依澄モノローグ(最初から知っていた。碧君が僕によく話す女の子が由良ちゃんだってこと。だってそんなの聞かなくても分かるほどに碧君が由良ちゃんを見つめる目は優しかったから)
◯依澄の編入時の回想シーン
依澄(最初は碧君を困らせてやろうくらいの軽い気持ちだったんだ。だから由良ちゃんに近づいてちょっと仲良くなってなんなら、僕のことを気にすればいいってそんな最低な事まで考えてて。でも、由良ちゃんはそんな僕にすらどこまでも真っ直ぐで優しくて一生懸命で)
依澄「そんなの好きになっちゃうでしょ…」
依澄(由良ちゃんの頬に触れた時、ふと我に返ったから良かったものの、体は正直なんて良く言うけど本当にそうだ)
依澄(キス、しようとしてたよな僕)
目を閉じて再び深く溜息をつく依澄