【コンテスト用シナリオ】恋は光の色をして私たちに降る

第四話 自分の気持ち

由良(依澄君が私を好き?そんなこと全然、といったら嘘になるけどまさか本当に好きだなんて考えてなかった)
由良(それなのに私、先生の話しばっかりして依澄君のことなんて何も考えずに…馬鹿みたいだ)
由良「私、自分のことばっかりで…」
謝ろうとする口を大きな手のひらでそっと塞がれてそれ以上話せなくなる由良
依澄「謝らないでよ。由良ちゃんは何も悪くないんだから。僕が勝手に由良ちゃんのことを好きなだけなんだ」
優しく目を細めて微笑む依澄
依澄「僕の方こそごめんね」
由良の唇に親指で触れてすぐに離した
由良「っ、。私帰るね」
いたたまれずその場を立ち去る由良
玄関の扉が音を立て閉まった

◯玄関にそのまま座り込む依澄・項垂れて頭をぐしゃりと片手でかいた
依澄「何泣いてんだ…」
自分の頬を伝う雫に気がついてぽつりとこぼす
依澄「絶対に言わないって決めてたのになぁ」
あーあ、なんて天井を仰いでいる姿
家族よりも近くにいた碧の好きな人を自分も好きになってしまい信じられない気持ちと遣る瀬無い気持ちで俯く
依澄(好きだなんて言わなきゃ良かったなぁ)

◯自分の部屋に着くなりただいまも言わず靴を脱いで小さなソファに沈み込む由良
由良モノローグ(私が好きなのは先生。それなのに依澄君に面と向かって好きだと言われて迷惑とも思わなくてただ素直に嬉しかった)
由良「何で…」
由良(どちらにしても先生にはっきり告白して
だめならだめで振られないと次に進めないよね)
◯場面切り替わり依澄宅
依澄の手元のスマホが震える
依澄「…はい、もしもし」
依澄モノローグ(こんな時に誰だよと思いながら電話に出る)
碧「具合大丈夫か?」
電話の声が碧だと分かるなり依澄はやっと姿勢を正した
依澄「あーうん。何とか」
碧「そうか。それなら良かった。なぁ依澄今から出て来れるか?」
依澄「え、今?」
碧「うん。話したいことがあって、さ。実は今依澄のアパートのすぐ近くまで来てるんだ」
そう言われると依澄は仕方がないといったふうに外に出た
◯少し歩くと碧の車がそこにはあった・車の外から目を合わせると碧はふっと微笑み依澄はそのまま助手席に乗り込んだ
碧「ごめんな。急に」
依澄「本当だよ。一応病み上がりなんですけどー」
ふざけた口調に碧は笑う
碧「久しぶりにドライブでも行くか」
すでに車は走り出していた
依澄「ドライブかぁ。懐かしいね」
窓の外を眺めて過ぎ去る景色を見つめる
碧「依澄が高校生くらいの頃はよく連れて行ってたよな」
依澄「あの時は本当お世話になりました」
碧「気にすんなよ」

◯車を走らせて数十分、着いたのは人もいない工業地帯の外側・フェンスで囲まれた建物に海があって遠くに煙突から煙が出ているのがよく見える・街頭の光が綺麗だけど寂しい雰囲気を出している

碧「こんな所ばっか来てずっと話してたよな」
車から降りて伸びをする碧は依澄に微笑んでそう言った
依澄「そうだね。懐かしいよ」
碧「話があるって言っただろ。依澄なら気づいてると思うんだけど」
碧は少し言いにくそうにして海の方を見つめている
依澄「うん、由良ちゃんのことだよね?」
碧「ふっ、さすがだな」
依澄「分かるよ。何年間碧君の従兄弟やってると思ってんの」
車のドアに寄りかかる碧を真正面から見つめて笑った
碧「はは、だな…俺さぁ由良のこと好きなんだ」
少し間を置いて碧は話し出す
依澄「うん知ってる」
碧「やっぱりバレてたかぁ。でもさ依澄も好きだろ由良のこと」
今度は碧が依澄に目線を合わせる番だった
依澄「うん。好きだよ」
碧は何も言わずに薄く微笑んだ
依澄「どうしようもなく好きだけど、でも由良ちゃんはきっと僕じゃ駄目だと思う。碧君じゃないと」
碧「依澄…」
依澄「碧君だってもう由良ちゃんの気持ちに気づいてるでしょ?本当、僕に気とか遣わないでいいから。早く告白して付き合っちゃえ!」
依澄は精一杯の笑顔で碧の背中を軽く叩いた
碧「付き合うってそんな簡単に…」
ぐっと堪えたように碧は依澄から目を逸らした
依澄「何で?もしかして先生と生徒だからとかそんなお堅いこと考えちゃってるの?だとしたらそういうのはやめた方がいいよ。由良ちゃんのことひとりの女の子として、ひとりの人間として見てあげてよ。じゃなかったら…僕が奪っちゃうよ」
悪戯っぽくあくまで重くならないようにそう言い切る
碧「っそれは駄目だ」
依澄「ほら。それが答えじゃん。僕は本当に碧君にも由良ちゃんにも幸せになってほしいだけなんだよ。そこに僕が居なくてもふたりには笑っていてほしいからさ」
夜空を見上げながら依澄は微笑んでいる
碧「依澄…でもお前の気持ちはいいのか?」
碧の目を見たら"いいわけないじゃん"なんて言ってしまいそうな依澄は目を合わせないまま答える
依澄「僕なんかもう最初から勝ち目ないよ。由良ちゃんはいつだって碧君を見てた。そんなの振られてるようなもんでしょ」
肩をすくめる
碧「依澄…ありがとう。俺、由良にちゃんと告白する」
依澄がやっと目を合わせるとそこにはもう自信のない顔の碧はいなかった

◯依澄を家まで送りそのまま連絡もせずに由良の家へと車を走らせる碧
碧モノローグ(振られてもいい。今この瞬間なら迷いなく"好きだ"と言える気がする)
震える指で由良の家のインターホンを押す
由良「…はーい?」
碧「由良、急に来てごめん。開けて」
由良「先生?!今開けますね」
驚きながら玄関を開けてくれた由良の顔を見たら口よりも先に体が動いていた
玄関の扉が碧の背中の方で閉まる音を聞きながら同時にその華奢な体を思い切り抱き締めた
由良「えっと、せ、先生?」
腕の中で不安そうな声を出す由良
碧「好きだ」
何の前置きもなくただそう言った
碧「由良のこと困らせると思ってずっと言えなかった。でも…俺は由良のことがどうしようもないくらい好きだ」
声が震えて、掠れてそれでも伝えたかったことを今やっと言えた碧
由良「本当、ですか?」
信じられないという顔で碧の顔を見上げる由良は耳まで真っ赤になっている
その瞬間碧は愛しさが込み上げてとてつもなく優しい目をする
碧「本当だよ。由良、俺と付き合ってください。ずっと笑わせるから、絶対に守るから、だから」
告白なのに上手くまとまらない自分が情け無くてでも今の碧の精一杯はこれだった
由良「私も好きです。先生、こんな私でよければ…お願いします」
涙目で恥ずかしそうにはにかんで碧の目を見つめる由良
碧は思わず由良にキスをした
驚きつつも受け入れてくれる
碧「言っとくけど、俺そんなに大人じゃないよ?嫉妬だって結構するし我儘も言うけどそれでもがっかりしない?」
由良「ふふ、しませんよ。だって先生は先生でしょ?」
◯再び碧が由良を抱き締めた

◯翌日大学講義室・朝・窓際の席でぼーっと窓の外を眺める依澄
依澄モノローグ(見慣れた風景が広がる僕の目に映ったのはいつもより距離が近い由良ちゃんと碧君だった)
◯ふたりは手を振り合って別れると碧は準備室のある方へ由良は依澄を見つけて目が合うと近づいてきた
由良「依澄君おはよ。もう大丈夫なの?」
風に髪の毛をサラリと靡かせる由良
依澄「おはよ。大丈夫だよ」
由良「そっか。良かった」と言いながら当たり前の様に依澄の隣に座る由良
由良「依澄君、あのね私先生と…」
言いかけたその言葉を遮って 
依澄「上手くいったんだね」
そう言って無理矢理笑った
由良「あ、うんその…そうなの」
由良は申し訳なさそうに少し俯きがちに答える
依澄「あ、もしかして気にしてる?告白のこと」
依澄は精一杯の強がりにこの時ばかりは気づかないでくれと願っていた
由良「そりゃあ気にするよ!」
少し頬を赤らめて怒る由良
依澄「あははっ。ごめんごめん。あれ嘘だよ。だって僕がああでもしないと碧君も由良ちゃんも一生本当の気持ち伝えなさそうだったから」
由良「え、嘘だったの?本当かと思ってちょっと気にしたのに!それに恥ずかしかったんだからね!」
由良は自分の頬を両手の平で押さえて照れている顔を一生懸命隠している
その姿がとても愛おしいと感じるのにそれをもう伝えることは無いんだな、と依澄は切なくなった
依澄「お節介焼いちゃってごめんね。でも安心して。もうあんなことしないから。それにそんなことしたら碧君に怒られちゃうよ」
由良「お節介だなんてそんな…依澄君のおかげだよ。ありがとう。本当に」
依澄「いえいえどういたしまして。じゃあ僕、今日はあっちの席で講義受けるから」
由良「え?どうし…」
依澄「最近黒板よく見えないんだよね」
前の席を指さして依澄は由良の隣から離れて行った
ひらひらと手を振って由良に背中を向けると同時にぼそっと声が漏れる
依澄「はぁ、しんどいな。これ」
依澄モノローグ(わかっていたはずなのに、自分で手放したのに)
講義が終わってスマホを手に取るとメッセージが一件来ているのが見えた
差出人の名前を見て思わず
依澄「っは、マジかよ」
とらしからぬ声が出る
メッセージの内容("依澄!久しぶり!元気にしてる?今月日本に帰ります。碧こと驚かせたいからこのことは内緒ね!じゃあまた")
依澄はそのメッセージに返事を返すことなくそっと画面を閉じてポケットにしまった

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