愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで


【作画は期待できますが、両思いになった主人公たちのやり取りにリアリティがないのが残念です】

 一週間前、担当編集さんから届いたメールを思い出した私は目を伏せた。
 あれからネーム──いわゆる漫画を描く前に作る設計図みたいなもののやり直しをしているけれど、どうにも納得のいくものが描けずにいる。
 リアリティのある恋人同士のやり取りって何?
 恋をした主人公がどういう行動や台詞(せりふ)を言うのが正解なのか、わからなくなってしまった。
 完全に自信を失ったのだ。
 やっぱり恋愛経験に乏しい私には、恋愛漫画なんて描けないのかな。
 このまま何も描けなければ、担当編集さんに愛想を尽かされるかもしれない。

 ──カランカラン。
 と、ついネガティブ思考に陥りかけたら、お店のドアが開く音がした。
 振り返るとそこには、背の高い男性が立っていた。
 白いTシャツに黒のテーパードパンツ、足元も白いキャンバスシューズというモノトーンコーデのスタイリッシュな出で立ちだ。

「あ〜、すみません。今日のランチはラストオーダー終わっちゃったんですよ」

 休憩に入ろうとしていた私の代わりに、オーナーの重光さんが対応してくれた。
 対する私は、思わず目を見開いて固まった。
 なぜなら今お店に入ってきた人に、見覚えがあったからだ。

「っていうか、お前……(わたる)か!?」

 次の瞬間、驚いたように声を上げたのは、重光さんだった。
 たった今、重光さんが航と呼んだその人は、一週間前、私が通勤途中でぶつかった男の人に間違いなかった。

「重光さん、久しぶり。忘れられてなくてよかったよ」
「おいおい、忘れるわけないだろ〜。航、ちょっと会わないうちに背が伸びたか?」
「ハハッ、そんなわけないだろ。重光さん、俺をいくつだと思ってるんだよ」

 呆然(ぼうぜん)と立ちすくむ私をよそに、彼と重光さんは楽しげに会話を弾ませていた。
 どうやらふたりは知り合いのようだ。重光さんが名前を呼び捨てるってことは、ずいぶん親しい間柄みたい。

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