愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで

「俺、今年で三十二だぞ?」
「もう、そんな年になるのか~。ええと、たしかお前が防衛大出て潜水艦乗りになったあと、地方の基地勤務になっただろ。それで……異動したあと全然会えてなかったから、こうして会うのも何年ぶりだ!?」
「んー、五年とか六年ぶりかな」
「だよなぁ。って航、ここに来たってことは、まさかそこの基地配属になったのか?」

 前のめりで重光さんが尋ねると、彼は小さく(うなず)いた。

「辞令が出てからすぐ出港したから、挨拶に来るのが遅くなったんだ。ところで今日、祥子さんは──」

 と、不意に彼が店内に視線を滑らせた瞬間、棒立ちしていた私と目が合った。

「え……」

 形のいい目が大きく見開かれる。
 いたたまれない気持ちになった私は、咄嗟にぺこりと頭を下げた。

「どうしてここに、君がいるんだ?」
「ん? 航、陽花ちゃんのこと知ってるのか?」

 事情を知らない重光さんが、不思議そうに私たちを交互に見た。

「じつは──」

 彼は事の経緯を、重光さんに丁寧に説明した。
 一週間前、ランニング中に私とぶつかったこと。その際に私のスマホの画面が割れて、弁償を申し出たけれど断られたことまで話してしまい……。

「ああ、だから買い替えたばかりの陽花ちゃんのスマホ、もう画面が割れてるのか」

 ひととおり話を聞き終えた重光さんが、納得したようにつぶやいた。
 私はあわてて声を上げて、遮ろうとした。

「そのことは──」
「彼女、今のスマホをもう何年も使ってるんじゃないの?」

 言い終えるより先に彼が口を開いて、逆に言葉を遮られてしまった。

「いやいや、一カ月前に買い替えたばかりだよ。前のスマホが壊れたとき、どうすれば直るか一緒にいろいろ試してみたし」

 重光さんはそこまで言うと、「間違いない」と力強く頷いた。
 真実を知った彼は、信じられないという顔をして私を見る。
 気を使ってついた嘘が、まさかこんな形で暴かれるなんて思わなかった。

 
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