愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「ごめん、つい……。こんな話をされても面白くないよな」
バツが悪そうに言われて、私は一瞬きょとんとしてから、あわてて首を横に振った。
「いえ、知らないことを知れるのは楽しいし、説明もわかりやすかったです」
「でも、退屈だろ?」
「そんなことないです。退屈なんて思いませんよ!」
素直な感想を告げると、航さんは少しだけ安心したように息を吐いた。
「そっか、それならよかった」
続けて彼は、やや自嘲しながら目をそらした。
「気を抜くとすぐに天気の話をして、同僚にはよくツッコまれるんだ。そんなんじゃ、いざ恋人ができたときに呆れられるぞ、って」
対する私はまたきょとんとしながら、以前、重光さんと常連さんが話していたことを思い出した。
自衛隊員は男性が大半を占めるけれど、中でも海上自衛官はとりわけ男性比率が高いのだとか。
しかも彼らは、航海任務などで長期間海に出ることも多い。陸にいる時間が限られる分、どうしても恋愛のチャンスが少なくなってしまうということだった。
でも、航さんほどの人なら、限られたチャンスの中でも引く手あまただろう。
自衛隊幹部のエリートな上に、この容姿だもの。
本人が気づいていないだけで、女性からのアプローチは尽きないんじゃないかな。
今の言い方だと恋人はいないように聞こえたけれど、本当だろうか。
「陽花?」
考え込んでいると、航さんに顔を覗き込まれてしまった。
反射的に目をそらした私は、かすかに感じた胸の痛みをごまかすように長い髪を耳にかけた。
「そ、それを言うなら、すでに航さんも知ってのとおり、私も似たようなものなので大丈夫です」
「え?」
「私も、気がつくと漫画のことばかり考えているので。ある意味、漫画が恋人みたいな感じです」
冗談交じりに言って曖昧に笑うと、航さんもきょとんとしてから目を細めた。