愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「陽花?」
と、エレベーターのそばであれこれ考えながらスマホを触っていたら、突然誰かに名前を呼ばれた。
反射的に顔を上げた私は、そこにいる人を見て凍りつく。
嘘……なんで?
視線の先には、もう二度と会うこともないだろうと思っていた人──高校時代に付き合っていた元カレの青木良太が立っていた。
「めっちゃ久しぶりじゃん! 元気してたか!?」
たった今エレベーターから降りてきたらしい亮太は、私のほうへと歩いてくる。
行き交う人々のざわめきの中で、私たちの間に流れる時間だけが止まったように感じて、動けなくなってしまった。
「亮太……なんでここに……?」
「なんでって、取引先に行ってきた帰りだよ。陽花のほうこそ、何してんだよ?」
私の前で足を止めた亮太はそう言うと、白い歯を見せて笑った。
大きめの声と笑い方は、高校時代から変わっていない。
けれど今はスーツを着ているし、顔つきも記憶の中の彼とは少しだけ違っていた。
昔はヤンチャなイメージだったのに、だいぶ落ち着いたように思う。
とはいえ、こうして会うのも十年ぶりだから、雰囲気なんて変わっていて当然だ。
「なぁ、陽花はひとりで何してたの?」
再度同じことを聞かれて、私は動揺を悟られぬように亮太から目をそらした。
「私は、買い物に来ただけだよ」
「ふーん。つーかさ、俺らって、会うの高校卒業ぶりじゃね? 陽花、成人式に来なかっただろ? クラス会にもいなかったし、元気にしてるか気になってたんだ」
そう言うと亮太は、目を弓のように細めて、顔を覗き込んできた。
咄嗟に一歩後ずさる。私と彼は、地元が同じ同級生だ。だから今言われたとおり、本来なら成人式でも顔を合わせていたはずだった。
だけど私は、自分が雨女だという理由で成人式を欠席した。みんなの晴れの日を、台無しにしたくなかったから。
そのあと開かれたクラス会にも足が向かず、以来、地元の誰ともまともに顔を合わせていなかった。