愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「俺、陽花がいないこと、結構心配してたんだぜ? つーか陽花さぁ、昔から顔はかわいかったけど、なんか今はすげー綺麗になったな」

 つい当時のことを思い出していたら、急に耳触りのいいことを言われて、ぞわりと肌が粟立(あわだ)った。
 心配していた? 絶対に嘘だ。騒ぐのが好きだった亮太なら、みんなのいる場では私のことなんて思い出しもしなかっただろう。
 その場しのぎに適当なことを言うのは昔から変わらないようで、私はまた嫌なことを思い出してしまった。

 ──あの頃の私は、クラスの人気者だった亮太に今のようにあれこれ褒められた末に告白されて、浮かれたままふたつ返事で頷いた。
 けれど、そうして始まった約半年という交際期間中、彼に大事にされた記憶はほとんどなかった。
 彼は常に友達との予定を優先していたし、デートにも必ず寝坊して遅刻してきた。
 ファーストキスの思い出もそうだし、その後の体の関係を迫られたときだって……。『まだ心の準備ができてない』と言った私に、亮太は舌打ちをしたあと『めんどくせぇな』と吐き捨てたんだ。
 そして、最後は二股をかけられた上に、捨て台詞を吐かれて終わった。
 大人になった今では別れて大正解だとわかるけれど、当時の私は深く傷ついて、男の人と付き合うのが怖いとまで思うようになった。
 もちろん、誰かと付き合うのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうようになった原因は、それだけではないけれど……。
 亮太は、自分が私にしたことなどすっかり忘れているみたい。
 そうでなければ綺麗になったとか、歯の浮く台詞は言えないはずだ。

「陽花って、今、何してんの?」
「何って、買い物に来て──」
「違う違う! 仕事は何してんのって話! 陽花って、そういう天然っぽいとこ、昔と変わってないんだな!」

 まるで自分は私をよく知っているとでも言いたげな亮太は、勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべた。
 不快感を覚えた私は、また彼から目をそらして眉間のシワを深くする。

 
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