愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「今は、海の近くのレストランカフェで働いてるよ」
「マジで? なんか噂では、都内で働いてるとか聞いたんだけど」
「三年前に転職したの」
亮太が誰から私の就職事情を聞いたのかはわからない。私が通っていた短大には高校の同級生が何人かいたから、噂が巡り巡って彼の耳に届いたのかもしれない。
だけど、さすがに漫画家デビューを目指していることまでは知られていないみたいでホッとした。
亮太はきっと面白がってあれこれ聞いてくるだろうし、知られたら嫌な思いをするのは目に見えていた。
「それじゃあ、私はもう行くね」
さっさとここから離れよう。これ以上、亮太と話すことはないのだから。
私は話を切り上げると、亮太に背を向けた。
そして、先ほど彼が降りてきたエレベーターの呼びボタンを押すと、ドアが開くのをひとりで待った。
上の階から降りてくる階数表示を眺めている時間が、いつもよりも長く感じる。
一刻も早く、亮太と距離を取りたいのに。
ようやく到着したエレベーター内には誰も乗っておらず、私は待ってましたとばかりに早足で乗り込んだ。
そして入ってすぐ、右サイドにあったパネルの【閉】ボタンを押して息をつく。
「陽花っ」
ところが扉が閉まる寸前に、また亮太に名前を呼ばれて、私は思わず目をむいた。
エレベーターの扉は閉まらなかった。亮太が外から呼びボタンを押したせいだ。
そのまま彼はずかずかと乗り込んできて、私の目の前まで迫ってきた。
「なぁ、思ったんだけどさ。俺たち、やり直せないかな!?」
「は……?」
「俺、今、まぁまぁいいとこで働いてるんだよ。陽花も話を聞いたら、絶対にまた俺と付き合いたいって思うはずだし」
興奮気味に詰め寄られ、体が恐怖で凍りついた。
やり直そうって、彼は何を言っているんだろう。
亮太が今どんな仕事をしていようが、私が彼ともう一度付き合いたいと思うことは絶対にない。