愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「陽花、俺のことめっちゃ好きだったじゃん。だって別れ話をしたときにも泣いてたし、陽花は俺と別れたくなかったんだろ?」
「何言ってるの? 私たちが付き合ってたのは十年も前の話だよ。それに、あのときは別に、亮太のことが好きだから泣いたわけじゃないし」
浮気を問いつめたら、責任転嫁された挙句に開き直られた。
見た目や性格のことだけじゃなく、『お前がいつまでもヤらせてくれなかったのが悪いんじゃん』とまで言われて……。
忘れていたのに、亮太と会ったことでまた思い出してしまった。
私は、一度は信じた人に裏切られたショックが大きくて、自然と涙がこぼれたんだ。
やっぱり男の人は裏切るものなんだって、改めて思い知らされた気がして──。
「とにかく、私はあなたとやり直す気なんてないから」
きっぱりと断ったあと、亮太から顔を背けた。
「わかったら、早く降りて。亮太はこの階に用事があったから、降りてきたんでしょ」
私は、自動で閉じかけたエレベーターの【開】ボタンを押した。
するとその手を彼に掴まれ、いよいよ心臓が嫌な音を立て始める。
「陽花、強がるのはやめろって。そういうの、陽花の悪いところだと思うぜ」
「ちょっと、やめてよ。エレベーターを止めたままなんて迷惑だから、早く降りて」
「だったら閉めればいいじゃん」
「は……?」
次の瞬間、亮太が【閉】ボタンを押した。
カチリと乾いた音が聞こえたあと、ゆっくりとエレベーターの扉が閉まり始める。
私はあわてて【開】ボタンを押そうとしたけれど、亮太に阻まれてできなかった。
やだ、このままだと亮太がついてきてしまう。
と、絶望しかけた、そのときだ。
「陽花っ!」
鋭く名前を呼ぶ声が外から聞こえ、扉が完全に閉じきる直前に誰かの手が滑り込んできた。
ガタン、と鈍い音とともに扉が跳ね返される。
現れたのは航さんで、彼は扉が開ききる前に乗り込んできた。