愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「大丈夫か、陽花」
その声と姿を目にした瞬間、こわばっていた全身から力が抜けた。
そのまま航さんは亮太から引き離すように私の肩を掴むと、自分のほうへと抱き寄せてくれる。
「な、なんだよ、お前……」
「急に乗り込んできて申し訳ない。ただ、俺の大切な彼女が、様子のおかしい男とエレベーターに乗っているのが見えたので、居ても立ってもいられなかったんだ」
大切な彼女──一時しのぎの嘘だとわかっていても、胸が甘く高鳴ってしまう。
逞しい腕と体をそばに感じて、一気に安堵感に包まれた。
「はっ、マジかよ。陽花、お前、男いたのか」
目の前に立つ航さんを見上げながら、亮太が乾いた笑みを漏らした。
「俺には、さんざんもったいぶってたくせに、この男とは平気でするんだ?」
続けて下卑たことを口にした亮太は、私を鋭く睨みつけてきた。
本当に最低だ。どうしてこんな人と半年近くも付き合っていたんだと、当時の自分を叱りつけたくなる。
思わず眉根を寄せると、私を見る亮太の視線を遮るように、航さんが一歩前に出た。
広い背中は海のように、強く優しく私のことを守ってくれる。
亮太が息をのんだのが空気感で伝わってきた瞬間――。
「降りろ」
航さんの有無を言わさぬ声がエレベーター内に重く響いた。
「チッ」
航さんに圧倒されたのか、亮太は舌を打ち、背中を丸めてすごすごと後ずさるように出ていく。
航さんが【閉】ボタンを押すと今度こそ扉が閉まり、そのままエレベーターはどこの階に止まることもなく一階まで下がっていった。
その間、言葉は交わされず、静寂が私たちを包み込んでいた。