愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「降りようか」

 沈黙を破ったのは航さんだ。小さく頷いた私は、彼の後を追うようにエレベーターの外に出た。
 そのまま航さんはエレベーターから少し離れた場所へと誘導すると、改めて私と向き合った。

「陽花、大丈夫か?」

 ふたたび気遣いの言葉をかけられ、いたたまれない気持ちになる。
 それでもどうにか心を奮い立たせて、口元に笑みを浮かべながら頷いた。

「大丈夫です。変なことに巻き込んでしまって、ごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございました」

 私は、航さんを静かに見上げた。
 すると彼はやや難しそうな顔をしたあと、眉根を寄せて短い息を吐く。

「間違ってたら申し訳ないけど、もしかしてあれが、初デートが雨だったっていう陽花の元カレ?」

 そうだ。航さんには、初カレとの初デートが雨だったことを話したんだっけ。
 最悪なファーストキスの思い出や、亮太との付き合いについての具体的なことには触れていないけれど、彼には見抜かれてしまったらしい。

「……はい、そうです。まさか、こんなところで会うとは思いませんでした」

 正直に答えると、航さんの眉間のシワが深くなった。

「ひょっとして、復縁を迫られた?」
「まぁ、そんなことを言ってましたけど、本気ではないと思います。別れた原因も彼の浮気でしたし、ハッキリと、やり直す気はないって伝えました」

 今度は曖昧な笑みを浮かべると、なぜか航さんには長いため息をつかれてしまった。
 もしかして、変な奴と付き合っていたんだって呆れられてしまったかな?

 
< 36 / 64 >

この作品をシェア

pagetop