愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「あの、航さん……」
不安になった私は、航さんの顔を覗き込んだ。
すると航さんは不意に私の手を取って、予想外のことを口にした。
「助けるのが遅くなって、本当にごめん。怖かっただろ。今度から、ふたりで出かけるときには絶対に陽花をひとりにしないって約束する」
その言葉と手の温かさに気づいたら、自然と目の奥が熱くなった。
ああ、おかしいな。今さら亮太と会ったからって、何も変わらないと思っていたけれどそうじゃないみたい。
亮太と付き合っている間、こんなふうに心配されたり気遣われたことは一度もなかった。だからこそ余計に航さんの言葉が胸に響いて、たまらない気持ちになる。
「もしもまた、あいつが何かしてくるようなら必ず俺に相談して」
航さんの優しさが伝わってきて、心の中で何かがふわりとほどけていくのを感じた。
──彼のことは、心の底から信じられるかもしれない。
信じてみたいと、強く思った。
「ありがとうございます。航さんにそう言ってもらえて、心強いです」
素直に気持ちに寄りかかると、航さんは少しだけ驚いた顔をしてから「どういたしまして」とつぶやいた。
「ところで、買いたいものは無事に買えましたか?」
もうこれ以上は、亮太の話をする必要はない。航さんのおかげで踏ん切りがついた私が話題を変えると、彼はやや考え込んでから、ふっと顔をそらした。
「買えた──けど、俺のものじゃないんだ」
「え?」
「ここじゃなんだし、少しだけ移動しよう」
そうして航さんは私の手を引き、一階にあるガーデンプレイスと呼ばれる場所へと足を向けた。
そこはシティマークプラザの中心部に位置している、特別な空間だ。
街の喧騒を忘れさせてくれる、〝小さな緑の楽園〟と呼ばれる場所で、室内でありながらも季節の風を感じさせるようなところだった。
吹き抜けの天井は、まるで空へとつながっているみたい。
美しい花々が彩るフラワーウォールの前で足を止めた彼は、何かを決意した様子で息を吐いた。