愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「なぁ、村井」
「ん?」
「雨知らずの晴れ男がいるなら、晴れ予報を一変させる雨女もいると思うか?」
真面目なトーンで尋ねると、村井は「は?」と眉をひそめて立ち止まった。
「どうした、急に」
怪訝そうに尋ねられ、つられて俺も立ち止まる。
「どうしたって?」
「いや、俺が言っといてなんだけどさ。晴れ男とか雨女とか、航ならあれこれ専門用語を並べて一蹴するはずだろ」
はたから聞けば、頭のネジが外れた気象オタクだ。どうやら俺は、自分で思っている以上にヤバイ奴らしい。
陽花は『退屈なんて思いません』と言ってくれたけど、やっぱり気を使ってくれたんだろうな。
考えたら、笑みがこぼれてしまった。そんな俺を見て、村井はさらに訝しげな顔をする。
「航、何か悪いもんでも食べたのか?」
「昼食はこれからだ」
「じゃあ朝食か、昨日の夜か──って、昨日の夜は、仕事終わりに俺とふたりで飲みに行ったな」
村井は自問自答しながら、腕を組んで首をひねった。
俺も村井も独身だけど、現在は官舎ではなく外住まいだ。官舎時代は門限もあったけれど、今は基本的に帰宅時間に制限はないし、勤務時間外の生活は比較的自由に過ごせる。
だから村井と帰りが同じになるときは、外で食事を済ませることが多いんだけど……。
考えてみたら重光さんにプレゼントを渡すのも、仕事終わりでもいいかもしれない。
仕事が終わってから俺がシーガーデンまで行けばいいんだ。もちろん、陽花がそれでもよければの話だけれど。
「もしかして、お前をしのぐ最強の雨女が現れたとか?」
「悪い、今のは忘れてくれ」
村井のテンパり具合がおかしくて、今度こそ小さく笑った俺は、ふたたび前を向いて歩きだした。
まさかこの俺が、迷信を真に受けるなんてな。村井が驚くのも当然だ。
だけど、陽花に雨女の悩みを打ち明けられて以降、雨に関するものを見聞きすると、彼女のことを思い出してしまうようになった。
もしかして、またあの男が陽花に嫌な思いをさせてるんじゃないか。陽花が〝大事な日〟だと思うような相手と、会っているんじゃないか──って。